第210話 近衛騎士の在り方

「そうかよ。でも残念だけどそれは無理だな」


 ヤンはウェルズの言葉には乗らなかった。彼らしい期待させた言い方から一転する言葉に安心を覚えた。


「自信がないと?」

「いいや違うね」

「理由をお聞きしても?」


 ウェルズが食らいつく。


「簡単な事だな。実力は見せびらかすもんじゃねぇ。それに近衛騎士は守るための存在だ」

「守る存在? その力があるかと言っているのですが? 先程の子は力不足だった。そう言った話だったのでは?」

「そりゃ実力がないと守れないわな。現実的にあんたが襲って来たらあいつは一人じゃ守りきれなかったかもな」

「そうです。話の発端はそこですよね」

「けど同じ主人を守る俺もいるんだぜ、守り切れるに決まってんだろ。ただし、俺は近衛騎士として戦うだけの話だ。あんたとここで戦うつもりはねぇ。勝てる自信しかねぇけどな」


 ウェルズは納得のいかない様でその気持ちが少し雰囲気を通じて感じ取れていた。


「そうだな。ここで戦う方法が一つあるぜ」

「それはどうすれば?」

「あんたが俺の主人が襲って来たら返り討ちにしてやるよ」


 ヤンが私の方を見て言った。

 顔が笑っているから本気では無いとは思うけど、私は驚いた。まさか冗談でも私を餌にしようしてないヤン?

 ウェルズもその提案には笑っていた。


「呆れた近衛騎士だ。主人を餌にするなんて聞いたことがない。まぁ、いいでしょう。私も元々は誤りに来ただけですので。それでは、またお会いしましょう」


 ひとしきり笑った後にウェルズは一言言い残して帰って行った。

 正直言ってウェルズとはもう関わりたいとは思わない。ゲームのキャラのせいで嫌なイメージだったけど、今日の一件で一層嫌なやつだと理解した。


「ヤン! どうでもいいけど、早く医務室に行きましょう」

「あぁ、そうだな」


 ヤンと校舎に向かって走り出す。

 ただ、それまでに聞いておきたいことがある。


「ヤンはユリが負けた事に対してはウェルズと同じ意見なの?」


 さっきのヤンの言葉が胸の中で引っかかっていた。『お嬢、やめとけ。あいつの言う事も間違いじゃねぇ。言い合いするだけ立場が悪くなる』と言う言葉が。


「いいや違うね」


 返ってきた言葉は否定だった。


「俺も、ユリもまだ所詮学生だ。まだまだ伸びていく。その時にちゃんと守れたらいいじゃねぇか。それに学生風情がちゃんと主人の身を守れるかなんて言われたらほとんど無理だろ。現役の近衛騎士でも確実なんて言えねえ」


 「分かるか?」ヤンが肩を叩いた。友達に話す様な様で、堅苦しく言われるよりも信用できてしまう。


「でも確かに実力も必要だ。だからそこは間違ってねぇよ。けどな、本番は本番で、試合は試合だ。場面も違うしな。嫌な話だけどよ、ユリは最後まで粘ったな、本来ならその間に主人なんて逃げてるぜ。だからああやって時間稼ぐのも戦い方なんだよ」

「私は逃げないわよ!」

「いや、逃げろよそこは。まぁいいや、つまりそう言うこった。勝つ事が全てじゃない。それだけ分かってやればいいさ」


 胸の引っかかりが無くなった。近衛騎士としての誇りもあるけれど、彼なりの信念と考えがあった。私はそれが分からなかった、そして彼を疑ってしまった。それが恥ずしくなった。

 引っかかりが解消されると目の前にはいつの間にか医務室が近づいてきていた。

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