第204話 譲らない攻防

 武器同士がぶつかる鈍い音が耳に響いた。

 手に痺れはない、ただ私自身も力に押されて即座に反撃には移れなかった。

 相手もそれは同じで、木剣を弾かれて無防備な状態になっていた。

 相手が体勢を立ち直すよりもこちらの方が僅かに早かった。構えもなく、木剣を相手に当てる事のみを考えて振るう。だけど、相手の身体に届く寸前で止められた。

 それでも打ち込む場所を変えて攻め続ける、速さで相手を圧倒しないと勝てない。手数を打ち込んいく、大きな一撃じゃない戦い方を、自分の持ち味を活かした戦い。

 空を切る音と攻撃と防御が重なる音だけが私達の周りを支配している。お互いに声も上げずに攻防を繰り返す。

 こちらの攻撃の手は八回程で終わりを告げた。

 逆に相手も防御をしてからこちらに反撃を繰り出してきた。攻めと守りがお互い譲らないまま乱打戦へともつれ込んだ。

 互いの攻撃は直撃しないだけでお互いの身体を掠めてじわじわと傷をつけていく。


「「はぁ!」」


 示し合わせた訳でもないのに声が重なった。それは互いが正面に打ち合う攻撃の最中。

 攻撃と防御じゃなく、攻撃と攻撃がまたぶつかり合った。さっきと同じ音がしたけど、結果は違った。

 互いに跳ね除けられてその場に立って居られずに後ろへと下がった。隙だらけでも攻撃にはうつれなかった。


「想像以上だった。残念だ」

「それはどうもありがとうございます」


 相手の発言には少し驚いた。無口だと思っていたら急に話かけて来たのだから。

 ただ、あまり言葉の意味が分からなかった。私は相手が強かったら逆に昂る。強い相手だと残念だと言う思考は私には持ち合わせていない。


「自分の技と呼べる程の物かは分かりませんが、それがある程度通用すると勉強になりました。後は私が勝ちます」


 ガルド城で見た通りの動きはできなかった。それでも、非力な自分が相手の攻撃を弾いて反撃に入れたのはそれなりには効果的だったと前向きに考える事にする。

 私は肩に大きな一撃と多少の細かい攻撃を。

 逆に相手にはせめぎ合いの中で中程度の攻撃を何回か入れる事ができた。

 お互いに真逆の攻撃がダメージとして入っていた。だからこそ、そろそろ決めたい。

 前に木剣を構えて足に力を溜める。目は相手を捉えて注意を外さない。そして前に踏み出す。こちらから仕掛ける攻撃、相手の防御を潜り抜けて致命的なダメージを入れる事に専念した。

 ただ、相手は予想外の行動に出た。それは、相手もこちらに向かって来た。攻撃に攻撃をぶつけるつもりなのか。

 私から木剣を振るった。先に勢いをつけて相手の攻撃よりも早く、かち合っても弾ける速度を乗せた。


「なっ……」


 思わず声に出た。それは相手の攻撃が私の攻撃に対してもでもなく、致命的な一撃を入れるために胴体にでもない場所へと振われたからだった。

 明らかに下半身へ向けた攻撃。それが分かっても私の振った攻撃は止められない。避けることも出来ない、目で追えても身体が反応しない。

 そして、互いにこの試合の最後になる攻撃が繰り出された。

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