第203話 激突する力

 試合開始を告げる声が響いた。

 ただそれでも私と相手は見合ったまますぐには動かなかった。互いに相手の出方を見ている。

 じりじりと日差しが地面を焼いて、私をも焼いている。ただ、立って見合っているだけなのに汗が吹き出てくる。

 自分の打ち込みを頭の中で組み立て、イメージで相手にぶつけて見る。結果は半々と言った所でお互いにダメージを受けるイメージが浮かんでくる。その中でも自分が受けに回った方がダメージは少なかった。

 だから私は相手からの攻撃を待つ。時にはわざと隙を見せて誘っても乗っては来ない。警戒されている。


「来ないんですか?」


 態度でダメなら言葉にした。

 試合の中での問答は探りに使える。相手の考えが言葉の端々に見つけることが出来るからだ。


「お互い考えている事は同じなのだろう」


 表情に変化はない、言葉だけが帰ってきた。

 言葉の通りお互いが返しを狙っている、それは分かった。

 そうなればこの勝負は終わらない。いや、体力と精神力が優位な方が勝つ。それか速さで相手を圧倒できれば背後の人型を攻撃して終わる。

 「こんなとこで体力を無駄遣いしたくない。私には次が控えている」そう心の中で苛立ちを吐き出す。

 「私は負けられない。彼の仇を取ると言ったのだから。だから私は勝ちに行かないといけない」頭の中で勝ちに行くイメージを組み立て、相手の背後にある人型も視野に入れた。

 その瞬間、相手が動いた。

 決して注意を話したわけじゃない。ただ、視野を広くしただけ、たったそれだけの瞬間の隙を相手は見逃さなかった。

 上段に構えた木剣が振り落とされる。


「隙ありだ」


 反射的に木剣で受け止めた。けれども完全に防ぎ切る事は出来なかった。

 上から襲ってくる攻撃を下から受け止めても勢いは止まらずに木剣の先は私の肩に落ちた。


「ぐっ……」


 歯を食いしばって痛みに耐え、相手を押し返した。

 防御が間に合ってなければ今の一撃で終わっていたかもしれない。そう思うと冷や汗が額に滲む。

 またも膠着状態に戻った。ただ、変わっているのはさっきよりも私の方が分が悪いという事。

 「肩の痛みは消えないがまだ戦える。強がりなんかじゃない」自分に言い聞かせる様に胸の奥で呟く。

 今の一撃で分かった。この勝負は勝てるものだと、どこかそう思っていた。次の試合の事ばかりに意識が行っていた。目の前の敵はそんな優しいものじゃない。

 息を吐いて呼吸を落ち着かせて前を見た。目の前で構えた相手は私から目を離していない。そんな相手に向かってさっきまでの考え方じゃ勝てない。


「失礼しました」


 声に出した。相手の反応を見たかったわけじゃない。ここからが私の本当の勝負だと伝えたかった。

 さっきとは違って反応はなかった。

 そして私は構えを変えた。この前学んだことをこの試合で自分の技術にするために。それが出来ないとあの力強い攻撃は返せない。

 構えを変えた隙をついて相手は飛び込んでくる。

 見ただけで分かる力強い一撃が向かってくる。

 私は迫り来る攻撃に合わせて、迎撃のための攻撃を繰り出す。相手の力よりも勝る様な振り、握る力、身体全体で足から腰へと流れを作って力不足を補う。

 ガルド城の地下、目の前で本物の近衛騎士の戦いを見た。

 完璧なんかじゃない、だけど、間近で見た今なら少しは再現出来るかもしれない。防御を反撃へと変える一撃を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る