第202話 屈辱の敗北
駆け出したマルズ君がウェルズの横をすり抜ける事は無かった。
到達する前にウェルズの迎撃が襲った。走っていたマルズ君の胸元に命中して、マルズ君はそのまま後ろに飛ばされた。駆け出す前の場所よりも後ろに飛ばされて、動かなくなった。
カウンターの一撃は傍目から見ても致命的な一撃だった。
「もうやめて!」
ヤンの手を振り解いて私は陣の中で横たわるマルズ君の元へ駆け寄った。
「これ以上は無理よ」
ウェルズとの間に私が入ってそれ以上マルズ君に近寄れないように空間を遮る。
「分かりました。でも、フランソワ様……マナー違反ではありませんかな」
「何でも良いわ。もう終わりにして」
「彼に意識はありますか?」
マルズ君の様子を見る。息はしている、だけど声を掛けても反応はなかった。
「どう見ても意識飛んでるだろ終わりだ。先生、試合終了の合図を」
ヤンが私とウェルズの間にさらに割って入ってくる。
「勝負あり!」
宣言がされると周りから遠慮気味の拍手が鳴る。まばらな音が耳障りだ。
「ヤン、この子を手当てできる所に連れていくから手伝って」
「待って下さい。彼は私達が連れて行きますので、フランソワ様とヤンさんは次の試合を見てください」
そう言ったのはユリィとアンだった。
「俺が連れて行くから……」
「ダメです。次はユリさんの出番ですよ。」
アンの言葉にヤンはそれ以上何も言わなかった。
「大丈夫ですか!?」
ユリも駆けつけてくれた。だけど、手を貸そうとするとアンとユリィがそれを許さなかった。
そして有無を言わさずにそのまま二人でマルズ君を校舎へと連れて行った。
「無事だと良いですね彼」
ウェルズが背後から言った言葉は私の逆鱗に触れた。
「勘違いしないで下さい。ルールの通りしたまでです」
「ふざけな……」
振り向いて怒ろうとした時に飛び込んで来た光景は二人の騎士が表情を見なくても、後ろ姿を見ても怒りに溢れている事が分かる状況だった。
さっきの言葉は私ではなく、二人に言ったのだと理解した。
「試合じゃなきゃ俺がお前をボコボコにしてやってたな」
「そうですか。それは……叶いませんね」
「ヤン先輩……私が彼の仇を取りますよ」
ユリの怒りの言葉にウェルズは不敵な笑みを浮かべる。
「次の試合、ご武運をお祈り致します。それでは失礼」
ウェルズがそのまま待ち合い場所へと戻って行く。
私とヤンは先生に陣から早く立ち退く様に促されてさっきまでいた場所へと戻って行く。戻ると周りにいた人達がさっきよりも私達との空間を少し空けて見るようになった。近寄り難い空気を私達が出しているのかも知れない。
そして、ユリは次の試合のためを武器を準備して、目の前の相手と相対した。
「絶対にこんなとこで負けないでよユリ」
ウェルズへの挑戦を賭けたユリの試合が始まる。
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