第199話 初戦の終わり
さっきまでの試合とは違い、勝負は互いに様子を見ることなく始まった。
ユリの相手はユリよりも身体も大きく、見るからに力も強い。そんな相手に対して正面から切り込んだ。
武器のかち合った乾いた音が響く。
それも一度や二度じゃない。短い間隔で音が響く。鍔迫り合いはせずに互いが武器に当てあって、攻防が続いていた。
思わずそのやりとりに息を呑む。
ついに音が止んだ。その時相手に武器を向けていたのはユリだった。
ユリの繰り出す攻撃は相手の左胴部分に向けられていて、その攻撃を防ぐ形で相手は武器を止めていた。
「こりゃ、勝ったな」
ヤンの太鼓判が付いた。
「見とけよ。こっからは早いぞ」
ヤンの言う通りに私は試合に集中した。言葉の通り、すぐに試合が動いた。
ユリは押していた武器を一瞬のうちに離して、相手の右側に打ち込んだ。
それも一撃だけじゃない。肩、胴、足の上から順で。
武器の軌道は滑らかでいて、打ち込みは鋭い。そんな攻撃を受け、相手はその場に右足から地面に膝をつくようにその場にしゃがみこむ。
だけど、ユリは構えを崩さない。相手に武器の切先を向け、片膝はいつでも動けるように軽く曲げている。「少しでも動けば攻撃を打ち込む」そう言っている様にも見える。
そして、ついに相手は武器をその場に手放して、両手を上げた。
「勝負あり!」
宣言と共に相手は尻餅をついて、天を仰いだ。
「悔しい!」と叫ぶその姿は年相応の少年らしい。
ユリは相手に手を伸ばす。相手は少し戸惑って、照れている様な表情を浮かべ、手についた土を自分の身体で落としてユリの手を取った。
ユリが審判と観客に礼をすると、立ち上がった相手も慌てて子供が親の真似をする様にユリに習った。
すると拍手の音が小さいながらも少しずつ伝播して大きな音になった。
観客が声には出さないが、二人へとエールを送っている。
ユリの戦いが終わった後の余韻は冷めることなく、次の試合が始まろうとしていた。
ここからは勝者同士の戦いになる。しかも、組み合わせとしてはさっきまでの試合順で、勝ったもの同士の組み合わせになるらしい。
つまりこの試合はトーナメント戦になっている。
陣の中にはマルズ君とウェルズが入って行く。今回もどこか緊張気味なマルズ君だけど、さっきよりかは頼もしく見える。
ただ、緊張するのも無理はない。さっきの試合では同じ一年生に圧勝したウェルズが相手なんだから仕方ない。
「さっきよりも頑張ってマルズ君!」
観客から選手に投げかけられる言葉に混じって私もエールを送った。
少し遅れて気づいてのかこっちを向いて律儀にお辞儀をしてくれた。
そして彼は気合を入れ直すかの様に武器を握ってない方の手で自分の頬に平手打ちをした。そのまま息を大きく吐いた。
「よろしくお願いします!」
対戦相手のウェルズに向かって私達の所まで聞こえるような声を放った。
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