第198話 未知の実力者

 ウェルズの試合が終わると、一戦目も後半戦に差し掛かる。

 後半戦の先試合はさっきウェルズと共にいた人物だった。

 がっちりとした身体に、太い腕というのはどこか私の好みではあったけど、惹かれなかった。

 ウェルズといたからなのか、それとも別の理由があるのかは分からない。強いて言うなら、大人びていると言うか……老けて見えるのが原因かもしれない。

 そんな失礼な事を心の中で呟いているうちに、試合は始まり、一瞬で勝負がついていた。

 ウェルズと違い、余裕を見せびらかす事なく、試合に望んでほぼ一撃で勝負は決着していた。

 相手の初撃を捌いて反撃、体勢を崩させるとそのまま相手の後方に立っている人型へと剣の一撃を入れた。

 真っ当な勝ち方ではあるが、相手にもちゃんと攻撃を入れてからの勝ち方はこの試合のルールのお手本のようにも見えた。

 勝ちの宣言にも表情一つ変えずに陣から出ていく姿はまるで武士のような印象を受けた。彼だけが、この世界で浮いているような気もする。


「来た!」


 そして私の待ちに待った試合がやってきた。マルズ君の試合も楽しみではあったけど、やっぱり私としてはユリの試合が今日一番であることは譲れない。

 審判の掛け声に合わせて試合の主役である二人が相対する。

 両者の武器は同じく剣。二人が構えて、始まりの宣言が響くのを両者じっと待っている。


「あれが噂の子だろ。 女だぜ……」


 そんな声が私の耳に入る。

 声の主は見たこともない男、見た目からして恐らくフランソワ達よりも年上に見える。


「近衛騎士で女とか聞いたことないや」

「物好きがいるよな」


 嘲笑う言葉は止まらなかった。

 考えるより前に私の足は声の主の方向へ踏み出していた。

 だけど、歩みはすぐに止まった。

 私の肩を掴む手が私をその場からそれ以上動かさない。


「流石に文句を我慢できないわ」

「やめとけ、揉め事は碌なことにならねぇ」

「でも!」

「大丈夫だ。あいつは実力で黙らせるさ」


 ヤンとユリはほとんど交流がないはず。それでもここまでの事をヤンは言い切った。


「前の街での一件で分かる、腕は立つ。それに噂通りならお嬢と一緒に手柄を立てるぐらいの実力があるなら……周りが何を言おうが戯言にしかならねぇよ」


 ヤンの言葉で私の足がそれ以上踏み出すために力を加えることはなかった。

 言う通りだ。ユリも最初言っていた。『実績もない』と。だから彼女はここで勝つ事で実績を作る。女だからって弱くないって事を。

 私は前を向いて、ユリの試合を見ることに戻った。

 そして一戦目の最終試合が始まった。

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