第200話 圧倒的な実力差の中で

 先生の一言で試合が始まった。僕の相手は上級生で、尚且つ他校から選ばれた生徒だ。

 正直な所気遅れしていないとは言えない。

 さっきの一試合からでも分かる実力の差が大きい。

 それでも自分にできることは一つしかない。最善と思われる戦い方をするだけだ。

 剣を構えて距離を詰めた。それに対抗するための手段はさっきの試合で見せられている、それでも距離をとって戦うよりも有利だと思ったからだ。


「てやぁ!」


 喝を入れる様に声を上げた。

 だが、距離は縮められなかった。

 相手の武器での攻撃がこちらに飛んできたからだ。その一手を武器で防ぐ形になって膠着した。


「君は遅いな」


 その一言で切り捨てられた。

 こちらの渾身の攻撃だったが、相手から見ればそうでもなかったらしい。少し傷ついた気もする。

 それでも諦めない。膠着状態から脱するために攻撃を仕掛け続ける。

 一手だ、一手だけでも先に当たれば流れを掴める。そう言い聞かせて攻撃を繰り出す。だけど、攻撃は阻まれ、乾いた音だけが鳴り響く。

 「やっぱり相手の方が強い」そう思った瞬間に身体に痛みが走った。相手の動きに反応出来ずに攻撃を受けた。右脇腹への叩きつけに思わず息が漏れる。

 そして追撃を貰った。またしても攻撃は見えなかった。だから攻撃されたと分かったのは痛みを感じてから、そして気づけば地面に倒れていた。見ている人たちからのざわつきが耳にぼんやりと聞こえて来る。ざわめきなのか、環境音なのか、誰の声、誰の出している音なのかすら分からなかった。

 右脇腹以外の痛みは右側頭部、そしてお腹の中心。いいようにやられていたらしい。それを認識できなかったのは多分意識が一瞬飛んでいたからかもしれない。


「ゲホッ……」


 口の中は血の味がした。唾と混ざり合って、口の中がぬるぬるしていて気持ち悪い。

 喉まで何かが下半身から上って来ている様な気もする。

 それでも、まだ戦える。「さっきよりももっと頑張れ」そう言ってくれた人がいる。

 あの人は僕なんかを目にかけてくれているらしい。恐れ多い。あの人には立派な近衛騎士がいる、だから僕なんかは憧れてもなれないだろう。だけど、「頑張れ」そう言ってくれたあの人の言葉にだけは限界まで頑張ろうとそう決めた。

 足に力は入る、手に武器もある。ただ、先に一撃入れられて、流れを掴まれただけ。

 立ち上がって視界に相手を入れて、構え直す。

 さっきまで聞こえていた周りのどよめきが聞こえなくなった。静まり返った空気の中で、さっきよりも早く、相手が今度は反応出来ない様な攻撃を。

 大きく空気を吸って吐いた。呼吸を整えて、足に力を入れるために空気を口の中に溜めて息を止めた。

 息を吐くのと同時に足に溜めた力を爆発させて、一直線で相手に向かう。

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