第186話 フランソワ派の結成

「それは面白いじゃないか」


 総長の戯けた反応が返ってくる。


「でもなんでわざわざ? 君は楽しく学園生活を過ごしたいと言っていたのに」

「楽しく過ごすためです」

「なのに派閥を立ち上げると言うのは些かおかしくないかい? 派閥を立ち上げれば少なからず面倒事には巻き込まれるよ」

「かもしれません。ただ、私の派閥は誰の派閥にも所属しません。だから少なくとも勧誘はなくなると思うんです」

「それは安易すぎる。勧誘は無くなっても、他の派閥からは競争相手だと見なされる事になる。それは返って面倒事じゃないか?」


 総長の言葉は間違ってない。だけど、そう言われるのは読んでいる。正論だからこそ、事前に予測しやすい。


「そして、私は学院の内部での生徒会と言った活動には参加しません。もちろん投票などはします、ただ、投票される様な側には立つ気はありません。それが私の派閥です」


 私の宣言に総長が肩をすくめた。


「分からないな。派閥はあれど、意見はなく、生徒会には関しない。それであれば何のための派閥なのかな?」

「私が、私達が学園生活に専念するための派閥です」


 私とアンが考えた結果はこれだった。

 自分の派閥を立ち上げて、誰にも属さず、生徒会の様な立場ある役職へは参加しない。

 これで他の派閥から干渉を避けるための派閥立ち上げ。

 私達を取り込もうとすれば私達はその人と対立している人について、結果として干渉してくる事がデメリットになる。そんなシステムをアンが提案してくれた。そして、私はそのアイデアを採用した。

 明確に説明する必要はない。それを匂わせる事で私達から手を引かせる。


「なるほど。それは怖いな」


 意味を理解したのか強がった笑顔がそこにあった。

 私の後ろにいるアルも学校ではそれなりの影響力を持っている程の有名人だ。

 やりたくはなかったけど、その名前の影響力を私は使った。

 アルと騎士学校の総長に直接的なつながりがあるのは予測外だったけど、逆に効果がありそうな気もしてくる。


「そうだね。そしたら小細工なしで言おうか。俺の派閥に入りなよ。不自由はさせない」


 総長の本音が表立って出てきた。勧誘ではあるが、否定の言葉を許さないと言わんばかりの言葉の圧がそこにはある。


「君達は居るだけでいいんだ。それで俺も含めて周りからは干渉しない。もちろん他の派閥からも手出しはさせない。それで君達は安泰。問題はあるかな?」


 今言った言葉の条件だけ見れば間違いなく安泰だろう。だけど、それは受け入れられない。


「あります。私は縛られずに楽しく過ごしたいんです。干渉されなくても所属する事は縛られる事だと私は思うんです。リオル総長の名前という看板を背負うには私には重すぎますから」

「そんな事ない、君は君らしくしていればいい」

「できませんよ。無茶をして今の私がある。無茶が失敗すればリオル総長の名前に傷がつきます。代替わりをしてアーネスさんの名前に傷がつくかもしれませんので」

「そう言われると……何としてでも欲しくなるな。君達は小さい。だからこそ取れる選択肢もある事を分かるかな……?」


 なりふり構わない総長の言葉。そこには私の知らない総長がいる様な気がした。

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