第163話 失敗に落ち込む

「なんだか今朝からフランソワ様お元気がないみたいで」


 ユリィの話している内容が嫌でも耳に入って来てしまう。

 アンとアリスが私の所へ来てくれているのに私はその輪に入ることができていなかった。

 事の顛末としては結局あの後、オーランはそのまま居なくなり、私も街の入り口までヤンとユリに付き添ってもらって、そこで解散となった。

 そして今日ユリからの手紙で知ったことは、あの日の夕方にはオーランの部屋からは物が殆ど消えていたこと。そして勿論今朝から学校にも来ていないと言う事だった。

 そして、上級生の一名も同じように姿を消していた。その生徒は下層にいた人たちを雇っていた人らしく、下層にいた人の口から名前が出ていたとのことらしい。


「失敗しちゃったなぁ」


 彼の真意に気付くことが出来なかった。

 彼は誰かに既に雇われて、私の事を標的として見ていた。だから、彼は私の事を警戒していた。

 その事実が明らかになっても、私はいまいちしっくり来ていなかった。

 こっちに来て、なんだかんだで上手くいっていたのに、今回はうまくいかなかった。だからこその落ち込みようだった。

 彼はもう姿を表さないだろう。それが分かっているからこその落胆。


「どうされたんですか?」

「ごめんねアン、色々あってね。ちょっとそっとしていて欲しいの」


 友人の優しさはありがたいけど、今はその優しさが辛かった。


「ダメですよ。放っておけません」


 アンは引かなかった。

 アンの言葉に呼応するように私のお腹の虫が静かに鳴いた。


「ほら、お腹が空いてるんですよきっと。早くいつもの所でお昼に致しましょう」

「そうね。ありがとうアン」


 辛い、辛いけど、私は少しだけでも気持ちを切り替えた。気持ちはまだ落ち込んでいる、だけど、お腹は空く。お腹が空いているから、気持ちも滅入る。友達にも心配をかけてしまうんだ。


「今日はフランソワ様の好きな具材のサンドイッチを作ってきたんですよ」

「ありがとうアリス。それは楽しみね」


 アリスの作ったサンドイッチは美味しい。ホリナのサンドイッチにも負けないくらいに美味しいのを知っている。

 それが食べられるのなら少しは気持ちが回復するだろうと自分を鼓舞して、ユリィ、アン、アリスのいつものようにお昼に参加させてもらうことにした。



「やっぱりアリスの作ったサンドイッチは美味しいわね。元気が出てくるわ」


 アリスから分けてもらったサンドイッチを頬張ると落ち込んでいた気分から少し立ち直れた。

 ずっと先日のことを考えて気が滅入ってたのかもしれない。別のことが頭に浮かぶと多少ましになるらしい。


「一体どうしてあんなに落ち込んでいられたんですか?」

「そうですフランソワ様、私も気になります。貴方もよねユリィ」

「えぇ、そうですね」


 気になるのは当然だろう。あんなに目に見てわかるように落ち込んでいたなら、私が逆のみんなの立場でも気になる。


「まぁなんて言うか自分の失敗に落ち込んでたの。くだらないでしょ」

「そんなことはありません。フランソワ様でも失敗される事があるんですね」

「当たり前じゃない。私を何だと思ってるのよアリス」

「私は失敗ばかりなので、フランソワ様が輝いて見えますよ。私は本当に何度やってもやりたい事が上手くいかなくて……」

「そんな時もあるわよ。後はやる気で挑戦よ。私みたいにいじけてても仕方ないしね。ごめんね、なんか皆んなに心配かけちゃって」


 フランソワは恵まれている、こんなにも慕ってくれて、心配してくれる友達がいるんだから。

 周りに励まされて、私は少し調子を取り戻しつつある。

 悩んでも仕方ない。もし、またオーランと会う事が出来れば、その時はまた頑張ればいい。私がアリスに言ったことだったけど、同時に私自身にも言い聞かせていた。

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