第107話 魔法信者

 ユリは今来た道の方を見ていた。

 何かに身構えている。

 バレルさんも来た道の方に視線を向けている。さっきの冗談を言っていた表情じゃない。

 足音だ。砂利道を歩くような地面を踏みしめる音が聞こえて来る。


「こんな所が本当にあったとは。よく気付いたものだ」

「あぁ。まったく。驚きもんだ。ここなら探しもんもありそうだ」


 聞いたことない声が下品な笑いと共に聞こえてくる。

 通路から出て来たのはローブ姿の2人組だ。


「道案内ありがとう。一応聞いてみるが君たちは同志か?」


 つけられていたらしい。

 身長の高いローブ姿がこちらに尋ねて来る。


「同志?」


 質問の意図が私には分からない。


「魔法信者共か。俺らはちげーよ。関わんじゃねぇ」

「如何にも。それでは『魔法』の技術を読まれては困るな」


 言い終わると同時にもう1人のローブ姿が何かを投げて来た。

 それをユリもバレルさんも横に動いて避けた。

 投げてきたのは短刀だ。殺意のこもった投擲を2人は難なく避けた。


「それでは交渉できないか?」


 突然の言葉にここにいる人間の視線が全てユリに向いた。


「私達を無事にこのままここから出させてほしい。争うつもりはない」

「それは出来ない『魔法』を信じない者が『魔法』の技術を知ることはあってはならない」

「私達はその技術は知らない。そんなものがここにあるとも思えない。私達はただの好奇心でここに来た」

「保証がない。そして本当に魔法の技術があると言うこと自体知るべきではないのだ」

「知らないって言ってるじゃないか。それに本当に『魔法』があるとも思っていないさ」


 ユリの交渉はうまくいかなかった。ローブ男達からすると今この場に私達がいること自体気に食わないらしい。


「まぁお前らはそう言うだろうな。所でユリ嬢はえらく弱気じゃないか」

「フランソワ様もあなたもいます。出来る限り危険な事はしない方がいい」

「なるほどな。そしたら俺のことは除いといてくれ。フランソワ嬢にだけ心配しておいてくれや。後……ユリ嬢は大丈夫か?」

「分かりました。信じます。私も近衛騎士を目指すために鍛えてますので」

「了解した。1人ずつに持ち込む。とりあえず時間稼いでくれ」

「さっき投擲をして来た方なら私に任せて欲しいです。そうなれば勝算は?」

「俺がもう片方の1人ぶん殴って気絶させて、そのままそっちに加勢して終わり、勝率100%だ」


 2人の作戦が聞こえて来る。

 ローブ男の2人は投擲をしてからまだ動かない。

 そんなこう着状態の中、1番早く動いたのはバレルさんだった。

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