第106話 扉の先に

 厚い扉の開いた先には大人が屈めば入れそうな穴があった。その先は暗くて見づらいけど階段が続いている。


「本当にあったなんて」

「あぁ、びっくりだな」


 ユリも驚きを隠せないらしい。冷静なユリが驚いているのには新鮮さがあった。


「とりあえず入ってみない?」


 未知への好奇心に抗えずに驚いている2人を尻目に私は穴に手をかけていた。


「中暗いけど大丈夫か? 危なそうなら俺が先に行くが」

「大丈夫。外の光で少し先なら見えそう。火でもあれば安心だけど」


 後ろの2人は首を振った。


「ないならないで進みましょう」


 私はそのまま屈んで穴の中に足を踏み入れた。

 中は冷たい空気で満ちている。入り口から入り込む風と下から吹き上がる風がせめぎ合っている。

 かろうじて見える足元を慎重に一歩ずつ進んでいく。

 少し階段を降りると目の前は行き止まりになっている。

 左手に続いていた。ここからはほとんど光が差し込んでいない。

 左手に進んだところで何かが足に当たった。

 音は金属音だ。思わず手を壁につくとそこには何かが紐のようなもので繋がれていた。

 手触りで繋がれているものを推測するにおそらく電球のような物のような気がする。

 そこから下にある今足にぶつけたもの。それは恐らく電源だ。


「もしかしたら今から明かりがつくかもしれません」


 足元の金属の塊に手を這わす。

 四角い箱の上部に取っ手がある。それを握って動く方へと動かすと暗闇の一面が晴れた。

 人工の光が謎の空間を明るく照らし出した。

 さっき壁にあったのはやっぱり電球だった。紐のように見えたのは導線だ。


「おぉ。こりゃすげぇな」


 バレルさんの言う通りこの空間は恐ろしく広い場所だった。

 電源がある所から見て左右に道が広がっている。右手にはさらに壁がある。左手には電球が設置されていないため詳しく見えないけどずっと城の方に続いていた。


「まさしく秘密の抜け道ですね。場所的に左手にお城でしょうか」

「だろうな。そしたらこの右手には何があるんだろうな」

「右手にだけ明かりがつくようになってますし。誰かがこの場所に来ていたと言うことになりますね」


 2人が話している間に私は右手に進んでいく。目の前には壁ある。ただ行き止まりじゃない。先に続く大きめの通路があった。

 その道を通るとまた広い空間に出た。

 ここまで明かりは伸びている。ここも明るく照らされていた。


「すごい。こんな空間があるなんて」

「だな。けど今の通路はさっきと少し作りが違ったし後から追加した空間って感じだな」

「本当に詳しいんですねバレルさん」

「褒めても何も出ないぞ」


 冗談を言い合うくらいには緊張がほぐれていた。明かりがついたからだろうか。それとも探し物に近づいて来ているからだろうか。

 少なくとも私は高揚している。早くこの先に進んで行きたい。気持ちが抑えられない。


「ユリも早く行き……」

「フランソワ様! 岩陰に隠れてください!」


 突然ユリの大きな声が響いた。私は反射的に壁に背をつけるようにして出っ張った岩の影に身を預けた。

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