第105話 秘密の扉 後編

「少し待ってくれ。こりゃ当たりかも知れんぞ」

「えっ!? どう言うこと? ユリ待って!」

「どうしたんですか?」


 ユリと一緒にバレルさんのとこに戻る。

 バレルさんは岩の前に立って顎に手を当てている。如何にも何か考えてますと言う感じだ。


「2人とも少し静かに。動かないでくれ」


 そう言ってバレルさんが今度は手を岩につけてゆっくりと周りを歩き出した。

 足音すら立てないようにゆっくり地面を踏み締める。

 今この場所で聞こえて来る音は時折強く吹く風と葉っぱ同士で擦り合う音だけだ。


「ここだ! 来てみろ」


 ユリとバレルさんの元に走る。

 目の前にある岩はさっきと何も変わらないゴツゴツとした表面があるだけだ。


「一体何が?」

「ここからかすがだが風の通る音がする。耳当てみな」


 指差された場所に耳を当ててみる。ひんやりとして冷たい。

 何も聞こえない。集中力が足りないのかも知れない。目を閉じて耳に全神経を集中させた。

 それでも何も聞こえない。

 風が吹いた。周りの木々の葉っぱ同士が擦れる音が大きく響く。

 その音の中に確かに小さく、小さく風の通る音が、下手くそな口笛のような音が聞こえた。


「聞こえた!」

「確かに。かすかですが聞こえましたね」


 ユリにも聞こえたらしい。


「つまり、ここには風の通る道があると、つまり隠し通路があるかもしれないとバレルさんは言いたいんですね」

「あぁ、そう言うことだ」


 ユリが聞こえた表面を手で何度か叩いている。


「中に空間があるような音はしませんね」

「扉が厚いのかもしれないな。どいてみな」


 バレルさんが太い腕で岩の表面の出っ張りに指をかけて横に引いてみる。それでも岩は何も変わらない。

 それでもダメなら今度は別の場所に指をかけて引いてみた。結果は変わらない。


「バレルさん。手つきが手慣れてますね」

「そうか? まぁ色々経験してるからな」


 トレジャーハンターでも経験したことあるのかと思うような手際の良さで岩に色々試している。


「横に引いてダメなら押してみるのはどうでしょうか?」

「やってみよう」


 ユリの思いつきにも即座に実行してくれる。それでも何も変わらない。


「違うな。こうか」


 押しても何も変わらない岩を目先に呟いて太い腕に力が入ったのが分かる。

 今度は音の聞こえたところを中心に手前に引いた。


「こうだな」


 見た目は何も変わっていないが、バレルさんの手には何かが伝わったようだ。嬉しそう顔をしている。


「引いて、引く!」


 言葉と共に岩に変化があった。手をかけている部分から横に岩の表面が動いていた。

 動くと共に岩と動いている部分の隙間から大量の埃と葉っぱの腐ったゴミが落ちて来る。

 それを気にかけることなくバレルさんは岩の扉を開いた。

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