第104話 秘密の扉 前編

 探し始めた場所から少し塀に寄っていくと大きな岩が木々の間を縫うように鎮座していた。

 この庭を歩いていると岩なんてそこらじゅうにあるし正直珍しいものでもない。

 ただその岩に思うところがあった。

 それは何故こんな塀の近くに岩が放置されているかだ。

 塀は侵入者を拒むためにあるものだ。もちろん中からも越えられないように。

 なのに岩がここにあるのはいいものなのか。

 大きくて撤去できない理由もあったのかも知れない、だけど、私はここにある岩が気になってしまった。


「えらくあの岩が気になるみたいじゃないか」

「えっ!? そんなに見てましたか?」


 バレルさんの指摘に我に帰った。


「あぁ。でどうしたんだ」

「いえ、あの岩って塀の近くなのにどうしてあるのかなと思って」

「言われて見たら確かに塀近くであるのも合理的じゃないな」

「えぇ、御二方の言う通り防犯上あるのは好ましくないですね」


 ユリもバレルさんも同じ意見のようだ。


「少し見てみるか」


 バレルさんが岩に近づいていく、私達もその後を追うように岩に近づいた。


「防犯上の問題じゃないって観点で見てみたらどうだろうな」

「どう言う意味ですか? 撤去出来なかった技術上の問題とか?」


 バレルさんの言葉の意味が私には理解できなかった。


「それもあるかも知れないな。けど俺の思ったのとは違うな。『中から少しでも外に出やすくするため』とかな」

「泥棒のための脱出路?」

「違いますよフランソワ様。城主のための脱出路です」

「ユリ嬢の言う通りだ。城に危険が迫った時のための策だな」

「なるほど!」


 映画とかでよくある秘密の脱出路的なものを思い浮かべる。確かにそれならここにある理由として納得できる。

 それでもこの塀を越えるには道具がいる。塀を越えて逃げるための道具を持って逃げ出さないと行けないわけだ。それはそれで大変な話だ。


「フランソワ嬢の気づきは正しいのかもな。この岩に違和感があるのはそう言う事があるのかも知れないな」


 バレルさんが岩の周りを歩いて見ながら褒めてくれた。

 私はこの違和感を他の場所でも見つけられないか辺りを見渡してみる。だけどそんな場所は少なくともここからは見当たらなかった。


「フランソワ様、気長に探して見ましょう」


 ユリの励ましが身に染みる。


「何もないなら早く次にいきましょうバレルさん」


 ユリは先に歩み出して探索の続きに出ようとしている。バレルさんとはぐれないように声を掛けた。

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