第101話 魔法の存在

「なるほどな。それで今年はフランソワ嬢達が挑戦者として選ばれたわけだ」


 去年の挑戦者であるバレルさんの今回の経緯を話す。情報を交換して何か手がかりがないかと思ったからだ。


「去年は資料室で終わっちまったからなぁ。俺もずっと調べたり考えたり出来てた訳でもないしな」

「本業のお仕事がありますもんね」

「だから半日も考えてなかったよ。だから今年は暇そうな子どもに木札を渡したのかもな」

「でも毎年ついて来てる暇な人に渡してるって言ってましたよ」

「俺はもしかしてお付きだと思われてたのか。それかガルド公が適当なこと言ってるだけだろうに」


 つまり手がかりになりそうな事はないと言う事だ。


「そう言えば去年資料室でチェルさんに何か言ったりしたんですか? 『去年の人はおっかない人』だって言ってましたけど』

「ほとんど喋ってないからなぁ。でも体が大きい男は苦手とか言ってたかな」


 どうなったらそんな会話になるのか気にはなる。

 けど結局の所チェルさんの主観で怖い人だったって事だ。そう思うとなんでもない謎だった気がしてくる。


「バレルさんの意見を聞いてみたいんですけど、なんでバレル公はこんな宝探しをさせてるんだと思いますか? それも『魔法』って言葉まで使って」

「そうだなぁ。『魔法』ってのは興味引かせるためだろう。目的は分からん。自分の城にあるものが把握出来ないから探してるとかじゃないか。『城主たる者が知らないなんて気に食わん』とかさ」


 そう言われたそうかも知れない、けどこれは本人でないと正解は分からない問題だろう。あくまで参考として覚えておくようにしよう。


「じゃあ『魔法』はあると思いますか?」


 バレルさんはどう考えているのか聞いてみた。去年半日でも考えた答えを聞いてみたかった。


「ない」


 一瞬の間もなく言い切った。


「ロマンは感じるさ。でも俺はないと思うね」


 その言葉には信念がはっきりと現れている。


「フランソワ嬢はどうだ? そっちのユリ嬢も」


 私だけでなく、ユリにも質問が来た。


「正直言います、ないと思います。そんな便利なものがあるのかと考えます」


 先をいくユリは言い放った。


「私は…あると思うの。なんとなくだけど」


 その裏付けは私自身の存在だ。でも2人にその事は言えない。だから理由を明確にはできない返事しか出来ない。


「まぁ考え方は人それぞれだ。でもあんまり盲信的になるなよ」


 少し微妙な空気になりかけた所をバレルさんがフォローしてくれた。

 肩に置かれた大きな手が暖かい。

 ユリも笑みを浮かべて私たちの一歩先を歩いてくれている。


「それで、目的の場所は後どのくらいだ?」

「そんな遠くないと思います。もう少しです」


 庭と言うには広すぎる場所を私たちは進む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る