第100話 足音の正体

 少しずつ足音はこちらに近づいて来ている。

 足音に加えて枝を折るような音が加えて聞こえてくる。

 その音は私たちの来た後ろから響いてくる。

 ユリは気付いてるのか気になる。


「おー。いたいた。こんなとこで何してるんだ」


 後ろから聞いたことのある声が私達に掛けられた。後ろを振り向くとユリは既に後ろを振り向いていた。

 私達の目の前にいたのはバレルさんだった。

 不思議そうに私達を見ている。


「ここらへん広いし、整備されてるようでされてないだろ危ないぞ」

「バレルさんこそどうしてここに?」


 私は思わず聞いてしまう。


「城の窓から2人が庭に入っていくのが見えてな」

「それで追いかけて来たと?」


 ユリの口調はいつも通りだけど警戒しているのが分かる。

 

「別に何かしようってんじゃねーよ。ただ俺も暇してたんで気分転換にちょっと追いかけてみようかなと思っただけさ」


 両手を上げて何も持っていないことをアピールしながら言った。


「それで、ほんとに何してんだここで?」


 私とユリは無言で目と目を合わせる。言っていいものかどうかを首振りの合図だけで判断する。

『言うべきでは無い』私とユリの首は横に振った。


「私達も気分転換ですよ。ずっとお城に篭ってたら暇で暇で」

「そうか」


 納得してくれたようで安心する。後はこのままバレルさんと別れて私達は後に気を付けながら進んでいくだけだ。


「てっきり昔の城主の隠しもんでも探しに行くのかと思ったぜ」


 思わず身構える。悟られないように動揺を隠していつも通り受け答えできるように気持ちを切り替える。


「そんなのあるんですか!?」


 そんな私をバレルさんは不敵な笑みを浮かべながら見ている。心の中を見透かされているように感じる。


「まだまだだな。最初に反応した時点でバレてるぞ。こちとら伊達に商人してないんでな」


 どうする。このまま本当の目的を話すか、それともシラを切ってこのまま押し通すか、どっちが良いかを頭の中で考える。


「別になんでもいいさ。ただ、俺も連れてってくれよ! 俺も夜まで時間持て余しててさ。もちろん昔の城主が隠したのを見つけたら2人のもんだ。俺は一切分け前を要求しない」

「その保証はできますか?」


 ユリの強い口調での確認。

 一瞬の間を置いて今度はバレルさんの強い眼光と共に答えが返ってくる。


「こちとら商人だ。それが保証だ。契約事を反故にするような事はしねぇ」

「ではついてくる理由を聞いても?」

「もちろんだ。聞かれなきゃこっちから言うさ。理由は俺も気になってたからだ。去年ガルド公からその話を聞いて調べたが俺にはさっぱりだ。だからフランソワ嬢が去年俺の探してたものを探してるならその正体が見たい。ただそれだけさ」

「去年ってバレルさんだったの!?」

「あ、あぁ。それがどうした?」

「お聞きしますが、資料室の管理人は?」

「チェルちゃんだろ?」


 びっくりした。チェルさんがおっかない人って言ってたからもっと強面の人かと思ってたけど、去年ガルド公から木札をもらって調べてたのがバレルさんだったなんて。

 チェルさんは資料室からほとんど出ないって聞いたからバレルさんが知っていると言う事はほぼ間違いなく資料室へ行っている。


「なっ!だから頼むよ。男としてはロマン溢れるものは見てみたいんだ」


 両手を合わせて私達に頭を下げて頼み込む姿から悪意は感じなかった。


「いいですよ。ただし! さっきの契約は守ってくださいよ!」

「あぁ。何か力作業がいるならこき使ってくれ」


 くったくない笑顔でそう言うバレルさんはどこか子供じみていた。

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