第59話 アル決死の一撃

 腰の剣を走ったまま抜いてヤンの横をすり抜けて正面の大男に切りかかった。

 突然出現した僕に驚きを見せつつも大剣を振って迎撃してくる。受け止めるのは無理だと判断して距離を取る。それに合わせてヤンも大男との間合いを取った。


「あれがキースで間違いないみたいだね。聞いてた特徴と一致する」

「なんでお前がここにいんだよ! 頼んでたことあったろ!」

「後で全部聞くよ。だから今は前に集中」


 渋々といった顔もしつつ、笑みを浮かべてヤンは正面のキースを視界に捉える。


「次から次になんだ、小僧どもがよ。面倒くせぇなぁ」


 対するキースは心底面倒くさそうな顔をしてため息を吐いた。舐められている。逆にそこに付け入る隙がある「勝機」だと踏んだ。

 右から回り込むようにキースへと駆け出す。反対のヤンはこちらの意図を汲み取ってくれたようでキースの左側面へと回り込む。こっちは人数での有利さがある、その有利さを使ってキースに勝つ。

 同時に切り込んだ。


「挟み込んだら行けると思ったかぁぁ!」


 右手に大剣を構えたまま左手で腰にある剣を抜いてこちらを防いだ。さらに右手の大剣を切り込むヤンに勢いよく内から外へと薙ぎ払う。

 薙ぎ払った大剣はヤンを捉えた。何もなければそのままヤンは防御態勢のままで飛ばされたに違いない、だけど、ヤンはその薙ぎ払いを自分の剣に沿うように受け流した。勢いよくキースの大剣は空を切り裂いた。

 ヤンは受け流してそのままキースの懐へと入り込んで剣を構えて剣を振るう体勢に入った。

 だがその剣はキースに届くことはなかった。剣が届く前にヤンの胴体にキースの放った蹴りがめり込んだ。うめき声を上げてヤンが川の方に飛ばされた。

 その光景を見ていて一瞬力の抜けた隙にキースは渾身の力で受けていた剣を払ってこちらの攻めの姿勢を崩して、こちらにも左足で蹴りを放った。防御の姿勢も間に合わずに胴に直撃した。一瞬の痛みと共に背中から地面へと叩きつけられた。

 咳き込んで息を落ち着けて体勢を立て直した。

 恐るべきはあの体幹だ。大剣を片手に構え、反対の手では剣を盾に使い、残った自由な足で2人に確実なダメージを与えてくる。

この1回の攻防でキースの武器はあの手にある大剣だけでないことを悟った。


 なら、こちらのやることは1つだ。武器の1つである体幹を潰す。

 さっきと同じようにキースとの距離を詰めに行く。

 今度はヤンがいない分こっちに迎撃が集中してくる。左から迫りくる大剣を滑り込むように躱して、次に来る剣の振り下ろしを両手で振るう剣で弾く。いくら大きな体をしていようが、こちらの両手での振るいに片手で勝てるはずない。

 そして開いた空間めがけて剣を振るった。開いた空間の先にはキースの足がある。キースの回避行動よりも早くキースの足を剣が切り裂いた。

 だが浅い。致命的な一撃にはならない。それでも左足1本で軸にすることはできないであろう切り傷は与えた。

 その直後こちらにめがけて大剣が振り下ろされる。受けると叩き潰される。取れる行動は1つしかない。

 切り込んだ反動で動かしにくい体を思いっきり左に動かした。少しでもその場から離れるように。自分の右隣に大剣が着地する。回避はできたが生きた心地がしなかった。

 安心した瞬間、右隣に着地した剣の側面がこちらに向かってきた。これは流石に避けられなかった。体に精いっぱいの力を入れて堅く、腕と剣を大剣と自分の間に挟み込む。これが今できる体の駆動の限界だ。

 剣の面で吹き飛ばされた。また地面に叩きつけられてさっきは押し殺した胃の中からの逆流が止められずにその場で口から酸っぱい液体を吐き出した、血の味が口の中で感じられる。空から降ってくる雨で口をゆすぎたい気持ちになるが、今度は体勢が立て直せない、膝が笑い、頭の中も回転しているかのような、浮いた感覚がしている。

 その場で手の剣を地面に突き立て、体を支えることが今できる限界だった。

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