　私たちが目的地へと近づくにつれて別方向からは人の争う大きな騒音のようなものが響いてくるようになった。フロスト達の襲撃が始まったみたいだ。

　ということはヤンもこの辺りにいるかもしれない。早く見つけて合流しないと。

「いるとしたらこの周辺だと思うんですが」

　もう少し行ったところに川が見えた。雨のせいで濁った水が勢いよく流れている。

「建物を1つずつしらみつぶしに探していくの？」

「いや、それでは時間がかかりすぎます。なのであえて川沿いの開けた場所を進んでヤンに見つけてもらいましょう。ヤン以外の人物が来たら即刻逃げますよ」

「それでいいわ。行きましょう」

　その言葉の通り川の方へと進んでいく。強く打ち付ける雨のせいで視界が見にくいのが煩わしい。

　その中でも建物の間から視界の端に映るものがあった。人だ。

　人間が2人対峙している。対峙した2人のうち1人は服がかなり汚れてボロボロで泥だらけだ。逆に大男の方はかなり余裕そうな態度に見える。

「アル！　あそこ！　ヤンがいるわ。戦ってる！」

　アルは私の言葉に顔だけ動かして私の示した先を見た。

　そこにいたのは紛れもなくヤンだった。黒のイメージがある彼も今では泥のようなくすんだ色の装いになってしまっている。

　あのヤンがそんなになるまでの強敵という事に思わず息を飲む。

「フランソワ様は離れて隠れておいてください」

　有無を言わさない言葉の圧に私はヤンが見えるところまで移動して建物の影に息を潜めて2人の騎士の行方を祈るように見守るしかなかった。

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