第57話 ヤンの戦い 後編

 建物の2階から剣を抜いたまま飛び降りた。地面に着地する前に後方の男に接触する瞬間に剣を振った。

 振った剣は男の右肩を斬り裂いたが、致命傷にはならなかった、振った瞬間にこっちに気づいた男は回避しようとしたからだ。

 着地と共に男が腰の剣を抜こうとするが、こっちの2撃目の方が圧倒的に早い。そのまま下から上に切り上げるように振るった俺の剣を受けて男は地面に倒れ込んだ。

 次はキースだ。足を止めずにキースの元へと切り込むが手にあった剣が先にこっちに向かって振るわれた。反射的に後ろに飛び下がる。


「なんだてめぇ……。さっきのやつらの仲間か? うざってぇなぁ」


 キースは構えた特大な剣に巻いていた布を取っていく。その手にあるのは剣というには厚く、金属の板が柄についたような武器だ。切るというには押しつぶすという言葉が頭によぎる。


「仲間でもねーよ。ただお前はここにいちゃいけねぇから切りに来た。それだけだ」


 懐に飛び込むために地面を蹴って前に出る。懐に入ってしまえばあの剣を振ることはできないはずだ。

 それをさせないために向こうも長いリーチを活かして剣を振るう。まともに受けると防御の上から叩きつぶされそうな勢いだ。それを避けて隙を見てキースの元へ切り込む。だが、キースはこっちの予想とは反してさらに剣を戻すように振るう。その振りもこっちの想定よりも早い、何よりさっきよりも振る速度が速い。

 予想外の攻撃に体勢を崩して地面を転がりながら避けた。緊急回避とはいえ、こっちの思惑とは逆に距離を離してしまう。


「ちっ。すばしっこい」


 悪態をつきながら笑うキース。間違いなくこっちよりも戦いの熟練度が高い。認めるのは癪だが強い。

 そんな格上に対して命のやり取りが土砂降りの雨の中で始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る