第50話 オーガスト=ルール 後編

「それでも形はどうであれヤンがそう思ってもらえるようになっているなら少し安心しました。ちゃんと卒業しても安心そうだ」

「ヤンは帰ってきていないんですか?」

「今朝昼前に少し帰ってきましたよ。少し話をするなりすぐに出て行きましたが」


 という事は、今夜まで家で支度をしているということはなさそうだ。アルは家に戻っているかも確認するためにこの家をあの状況で頼ったのかもしれない。


「先ほどもお話させて頂いた通り少しの間この家で匿って頂きたいんです。追ってきている奴がいなくなったのを確認でき次第出ていくように致しますので」

「あぁ構わないよ。それで君がいいなら」


 とりあえずは一旦ここで身を隠させてもらうという事で話がついたみたいだ。


「ところで、ヤンには姉妹がいましたでしょうか?」

「突然だね。ヤンは一人っ子だよ。あぁ服の事か、それは妻のものだ」

「奥様のものでしたか、失礼しました。可愛らしいものだったのでてっきり娘さんのものかと」

「古い物だからね。いまだに捨てられずに置いていたものが役に立つ日が来て良かったよ。妻も喜んでいると思うよ」


 やっぱりそうか。その口調に私は納得した。

 ヤンの父親であると聞いた時、今いる部屋に飾られた女性ものの装飾品と短剣を置いた祭壇のような物を見て、予想はしていたけど確信に変わった。


「亡くなられた奥様のものだったんですね。重ね重ね失礼致しました」

「謝るようなことではないさ。もうずいぶん昔の事だからね」


 ヤンに兄弟姉妹もいない。それは知っていた。だから私は悪いと思いつつも確信を得るための質問をした。

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