第49話 オーガスト=ルール 中編

 中に迎えてもらった私はタオルを受け取って体を拭いていた。雨に散々濡れた体は冷えていて、なんでもないタオルの温かさが身に染みる。

 私は個室の中へ案内されてそこの中で体を拭いている。ドア越しにアルと家主の会話が所々聞こえてくるけど、はっきりと聞こえないので逆に気になってしまう。

 タオルと一緒に渡された替えの服は女性のものだと思われる小さな服で、花の模様がついている可愛らしい服だ。もしかしたら家主の娘さんのものかも知れないと思うと、一層感謝の気持ちが強くなる。

 部屋の中に濡れた服を広げて気持ちだけでも乾かすように干した。

 着替えて部屋を出ると家主は温かい飲み物を3人分テーブルの上に置いたところだった。

 足が良くないのか少し歩き方がぎこちない。


「大きさはなんとか合ったようで良かったです」


 こっちを見て声をかけてくれた。


「こちらこそありがとうございました。服まで借りてしまって」

「いえいえ年頃の娘さんに会う服ではないでしょうけど、それしかないので我慢してもらえると助かります」

「そんなことはありません! 可愛い服だと思います」


 お互いに気を使う言葉の応酬で、やり取りはずっと続きそうな気さえした。


「さぁ冷めてしまう前にお茶でもどうぞ。温まりますよ」

「ありがとうございます。頂戴します」


 私はテーブルに座るアルの横に座った。

 

「フランソワ様先にご紹介します。この方はオーガスト=ルール様、ヤンの父君になります」

「えっ!? ヤンのお父様!?」


 お茶を飲んでいる最中に言われなくて良かった。もし飲んでるタイミングならびっくりして吹いていたかもしれない。


「息子をご存知でしたか。ご迷惑をおかけしていなければいいのですが」

「むしろ私の方が助けられています! ヤン君かっこいいですよね! 私は彼を近衛騎士にしたいと思ってますので! よろしくお願いします!」


 早口で頭に浮かんだ言葉を口にしてしまう。テンパるのが抑えられない。

 その言葉を聞いた2人は顔を横に向けて笑いを我慢している。その仕草に自分の恥ずかしさが倍増していく。


 笑うのを我慢しきった後にオーガストさんが口を開く。


「あなた様の事は先ほどアル君に聞きました。今のあなたの状況もです。しかし、近衛騎士云々は初めて聞いて驚いています。てっきりあなたの騎士候補はアル君かと」

「私は2人とも近衛騎士にしたいんです! 他にもしたい人がいます!」

「それは…欲張りですね」


 そう言って今度は隠さずオーガストさんは笑った。

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