　アルの行動は早かった。

　剣を抜くことなく、右手で出会いがしらの男の顔面に拳を放つ。

　男は右手でガードをしようとしたけど、それより先に拳が顔面に直撃した。そのまま壁に叩きつけられた男は叫ぼうとしたのか息を大きく吸ったけど、声を出す前に追撃の拳が腹部に思いっきりめり込んだ。

　見ているこっちの頭の中に骨がきしむような音を想像してしまう。

　男の左足が勢いもなく蹴り出されたがアルは目もくれずに背後に回り首を締め上げる。数秒後に締め上げた直後は抵抗していた男の腕から力が抜けて体に沿うように下ろされた。

「死んでいませんよ、失神させただけです。急ぎましょう」

　締め上げた男をそのまま地面に寝かせてまた私の手を引いて動き出した。

　そこからはお互い何も話さずに先導してくれるアルへとついていく。途中で手を放した方が走りやすいという事で離してもらった。

　そのまま少し進むと今度は道ではなく、建物の階段部分へと足を踏み入れた。

　今日たくさん見たような集合住宅と言うような感じの建物でなく、１階と２階でそれぞれ独立したような家がある建物の階段だった。

「ここでほとぼりが冷めるまで隠れさせてもらいましょう。協力してくれるとは思いますので……多分」

　若干浮かない顔をしてアルが言った。

　そのままドアの前に着くと躊躇わずにノックをした。

「アル=レイトです。いらっしゃいますでしょうか。ご助力願えないでしょうか」

　声をかけて数秒後にドアが開いた。

　そこにいるのは黒髪の初老を超えたくらいの年齢だと思われる男性がいた。決してふくよかという体格ではないが、やせ過ぎという印象もない。顔つきも怖いという印象はなく、どちらかと言えば優しいという印象をこちらに感じさせる。

「君が来るなんて珍しい」

　そう言って私とアルを交互に見て何かを察したかのように「とにかく入りなさい」と言って私たちを中に入れてくれた。

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