第43話 フロストの隠れ家 前編

「それでまずはどこに行けばそのフロストって人に会えるの?」


 私とアルは強くなる雨の中で下層に向かうために坂を下っていた。

足元は跳ね返る雨と坂の上から流れてくる水で容赦なく濡らされている。


「恐らく昔と変わらない隠れ家にいると思いますのでそっちに向かいます」

「隠れ家を知ってるの? それ隠れ家として機能してるの?」

「僕も知ったのは昔たまたまです。場所を知っているにはほとんどいません」


 そう言って下層の建物と建物の間を縫って歩いていく。雨のせいで人が出歩いていないのか、それともキース一派を怖がって外に出ていないのかは分からないけど、人がほとんど見当たらない。


「ねぇキース一派の人もこのあたりに居たりするの?」


 誰がどこで聞いているかもわからないから、私はアルに近づいて小声で聞いた。


「いないとも言えません。なので一応怪しいのがいないか注意しながら歩いているつもりです。もう少し速度を落としましょうか」

「いや、いいわ。任せる。早くしないといけないしね」


 そう言って私はアルについていく。

 縫って歩いた先にはいくつもの集合住宅の跡地があった。だけどどれも窓から荒れていることが分かる。窓ガラスは割れているし、吹きさらしの窓枠からは布が垂れている。


「ここから先は離れずついてきてください」


 言われたとおりに後ろから一人分も開けないくらいの感覚でついていく。

 一つの建物の中に入る前に入口の前に止まった。


「さっさと入れ」


 中の暗闇から人の声がした。

 建物の中にゆっくり入る。目を凝らしてみると男が一人いた。私たちと対して年齢は変わらないように見える。


「久しぶりだな、ボルグ。フロストは上にいるかい?」

「あぁさっさと行けよ。ヤンはもういないけどな」

「ヤンも来てたの!?」


 私に不審な目を向けつつもボルグと言う青年は首を縦に振った。


「いつ来てたの?」

「3時間ほど前だ。すぐに帰ったがな」

「それが聞けただけでもうれしいわ。ありがとう」

「さぁ、そろそろ行きましょう」


 アルに促されて建物の奥に入っていく。湿気の匂いが鼻を麻痺させる。体にまとわりつくようなじめっとした空気が正直気持ち悪い。

 階段を上がると奥の部屋にうっすらと明かりが灯っている。怪談話なんかで出てきそうな明かりのつき方で、この空気と相まって中には幽霊でもいそうな気がする。

 アルはそんな部屋の中に躊躇いもせずに入った。

 部屋の中にはベッドが置いてあって、そこには男が1人横になっている。枕元にはもう一人ガタイのいい男が椅子に座っている。腕の筋肉なんかだけ見ると結構好みかもしれない。

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