第42話 幕間 ヤンとフロスト

 湿気の籠った独特の匂いを久々に嗅いだ。外の雨も原因だろうが、元々この場所は湿気の匂いがいつも籠っていた。

 街を出て約1年ちょっと、たまにこの街に帰ってきた時でもここに寄ることはなかった。

 元々は集合住宅だったここも俺たちが子どもの頃にはだれも住んでいることもなく放置されていた。だからここは隠れ家にはぴったりの場所だった。


「お前は……やっぱりヤンか」

「フロストは上にいるか?」


 入口の入ったところでさっきからずっとこちらを見張っていた男に尋ねた。顔は見た覚えがある。だけど名前までは覚えてない。


「あぁ。行くなら勝手にしろ。ただ武器は……お前ならいいだろう」

「別に喧嘩しに来たわけじゃねぇ。安心しろ」


 そのまま奥に入って階段を上る。足が石の階段を叩く音が響く。石の建物だから外の雨の音はあまり気にならない程度しか聞こえてこない。

 上ると小さく明かりがついている部屋が見えた。吸い込まれるようにそこに一直線に向かっていく。


「久しぶりだな。手酷くやられてんじゃねーか」


 部屋の奥のベッドには一人の男が寝そべっている。フロストだ。短髪に目つきが悪いのは昔から変わらない。ベッドの横に座っているもう1人の男はフロストの側近のヴァリだ。小さな火元の明かりがフロストとヴァリを照らし出している。

ただいつものフロストと違うのは怪我を負ってベッドに横たわっているという所だ。利き腕の右手には包帯が巻かれている。襟元からも包帯が覗いていて、ここから見えない各所にも怪我をしていることが分かる。

 ヴァリもフロストほどではないにしても、顔や腕に切り傷が刻まれている。


「嫌味言いに来ただけならさっさと帰りやがれ」

「そう拗ねるなよフロスト」


 ヴァリは何も言わない。こっちを一目だけ見て椅子をベッドから離してそのまま座った。


「最近の下層の状況は今日聞いた。このままにしとくつもりか?」

「そんなつもりは毛頭ない。準備をして反撃に出るつもりだ。それでお前はいつ動くんだ?」

「逆だ。お前らがいつ動くんだ?」

 

 俺の返答にフロストは鼻で笑った。


「明後日の夜だ。だが、たった今変更する。今日の深夜だ」

「急に変更しても大丈夫なのかよ?」

「問題はない。もうほとんど終わっている。それにこの雨だ。決行するなら雨に紛れての方がいい。何よりお前が帰ってきている。その情報は時間が経てば経つほど伝わる可能性が高くなる」

「俺はお前らと協力するなんて言ってねーぞ」

「俺たちも協力してくれなんて言ってない。お前は勝手に動いてろ。俺たちは正面から行くそれだけだ」

「分かったよ。それじゃあな」

「場所とかは知ってるのか?」

「協力してるわけじゃねーだろ。それに俺は自分で見た情報を信じる」


 聞きたいことをだけを聞いて部屋を後にした。

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