第35話 ヤンとアル 中編

「と言うわけだ。だからお前に護衛を依頼しに来たんだ」

「聞いていいかい。なぜ僕なんだ。君と同じまだ見習いの学生だ、プロを雇った方がいいんじゃないかい」


 ごもっともな言葉だと思う。でもそうしないのにはヤンなりの考えがあることを私はここに来るまでの道のりで聞いている。


「今回のやつは計画性を持って狙ってきてる。外から護衛を雇っても所詮は他人事の護衛だ、隙は多いし、金次第で寝返る可能性だってある。だったら俺は自分の信用のおける奴に引き継ぎたい。それだけだ。それに今回は部屋に引きこもっての護衛だ。何にもならない可能性の方が高いさ。だから外から人間入れて不安の種を残す方が嫌だね」


 ヤンの言葉にアルは真っ直ぐ視線を私とヤンの顔を見比べた。自分の中で何かを納得したように少し冷めてしまった飲み物に口を付けた。


「君の言いたいことは分かった」


 アルはヤンの考えに賛同してくれた。だけど口から出た言葉とは裏腹に、言葉自体にすごく含みのある言い方だった。


「理解してもらえたなら話が早くて助かるよ。それじゃあ俺は行くぜ。後はアルに任せな」

「待て。君は何をそんなに急いでるんだ」

「久々に帰ってきたんだ。親父のとこに顔を出すんだよ。お前もさっき家にいただろ」


 ため息交じりにヤンは言葉を返した。

 そんなヤンからアルは目を離さない。


「これ以上止めんなよ。こっからは知らねーぞ」


 敵意。これ以上踏み込んでくるなと言う警告を言葉にして口に出した。その一線を越えると2人の仲でも許されない領域に入ってしまう。それが私にも伝わってくる。


「最後に一つだけ言っておくよ。困ったら……人にも頼るんだ」

「当たり前だ。そんなこと分かってるよ。ごっそさん」


 その一言を残して店から出て行った。私とアルは2人で締まるドアを見ていることしかできなかった。

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