第30話 黒いヒーロー 中編

「処置が終わりましたよ。と言っても薬を塗って飲ませただけですが」


 ヤンに教えてもらったお医者様はホリナを見て驚きながらも診察を終えた。ヤンとは知り合いのお医者様のようで私も少し安心できる。


「ホリナは大丈夫なんですか?」

「安静にして動かさない事、そして薬をちゃんと飲むことで命に別状はないし、後遺症もないでしょう。あとは本人の体力次第です。薬も万能ではないので、後は無事効くように祈りましょう」

「分かりました。ありがとうございました」


 ホリナは最初に比べると呼吸も落ち着いていた。相変わらず熱はあるけど今はもううなされていることもない。


「それと話があります。ヤン、君も聞いておいた方がいい」

「俺もか? 治療費ならそこのフランソワに言ってくれ」

「そうではありません。この方の症状についてです」


 私も気になっていた。お医者様がホリナを見た時の表情と『なんでこの症状が』という言葉。


「ホリナは結局何だったんですか?」

「毒です。それもこの地方にはまずいることのない生き物の毒ですよ。この方はどこから来られたんですか?」

「ホリナは我が家のメイドです。それも昔から、最近も別の地方にも行っていません」


 私の言葉にお医者様は考え込むように右手を顎に当てた。


「つまり言いたいのはこうか。『毒を打たれた可能性がある』って事だろ」

「なんでホリナが!? 彼女は誰からも恨まれていないわ」

「そう言い切れないかもしれないぜ。人間なんてどこで恨まれてるかわかんねーよ」


 そういわれると反論はできなかった。

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