第28話 助けてと叫ぶ 後編

「ここには医者なんていねーよ。居るのはもう少しあっちだ。残念だったなぁ」

「私急いでるの。邪魔しないで頂戴。お金が欲しいなら上げるから早くどいて」

「もの分かりいいけどよ、金だけじゃねーだろ。俺たちと部屋の中で遊ぼうや」

「しかし、本当にこんな所に良いとこのお嬢様がいるとは思わなかったな」

「だなぁ。俺の声のかけ方がうまかったんだぜ。俺に感謝しろよな」


 2人目の男もこっちに少しずつ近づいてくる。

 強がって見たけど内心怖い。どん詰まりで逃げ道はない、目の前には男が2人。足がすくんでいるのが分かる。


「誰か! 助けてください! お願い!」


 お腹のそこから声を出した。響いた声は小路の中で反響して想像よりも大きな音がした。それを2回繰り返した。それでも男達の余裕は変わらなかった。


「聞こえてもだれもこねーよ。ここは俺たちの縄張りだ。来たら獲物が2人に増えるだけだしよ」


 少しづつ近寄ってくる2人に対して私は前に駈け出した。出せる力を振り絞って全力で走り出す。横をすり抜けるか、ぶつかって体勢を崩して乗り越える。この場面を変えるにはそれしかない。

 少しでも細見の男の左側を目指して飛び出す。右足で思いっきり地面を蹴って肩から突っ込む。


「逃げられんよ」


 私の右手を男が掴んだ。そのまま引寄せられる。

 金的には届かない、そう判断して私は男の脛を思いっきり蹴った。


「このくそ餓鬼が!!」


 激高した男が私を投げ飛ばした。受け身も取れずに地面に転がされる。地面のひんやりとした冷たさが手と足を通じて感じられる。

 立とうとしても足に力が入らない。だけど痛みはない。「怖い」その感情が私の足に力が入らない理由だ。

 

「先に大人しくいう事聞くようにしてやるか」


 懐から短刀を取り出してこっちに近づいてくる。さっきまで以上に状況が悪くなった。


「嫌、やめて、助けて……。だれか! だれか助けて」

「無駄だってわかんねーかなぁ」


 私の心の底から出た感情とさっき以上にどこから出したか分からない声をあざ笑うように男は言う。

 蹴りを入れた方は舌打ちをしながらこっちにやってくる。

 涙が地面に落ちる。私の我慢の限界だった。もう男たちを睨み付ける気力もない。


「助けてホリナ……」


 かろうじて出た言葉はその一言だった。


「おめーら! そこで何してやがる」


 この場にはいるはずのない声がした。迫力はあるのに聞きなれた優しい声。

 その声の主に2人組の男は視線を向けた。


「だれだてめー。俺たちがだれだか分かってんのか!」

「おめーらこそ誰だ。俺を知らないってことはここらへんの人間じゃねーな」


 黒いセミロングの髪に釣り目の顔。間違いない。声の聞き間違いでも幻聴でもなかった。

 私は精一杯の声でこの場の空気を変えた人物に助けを求めた。


「助けて! ヤン!」

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