第27話 助けてと叫ぶ 前編

緩やかな勾配の道を下りながら目的地に向かって走った。だけど人が多く思った以上に走れずにどうしても急ぎ足で移動する形になっている。この時間のロスが惜しい。こうしている間にもホリナはうなされている。


「痛っ」


 私の距離の取り方が甘かったのか人にぶつかってしまった。完璧に避けたつもりだったのに。


「ごめんなさい。私急いでて」


 ぶつかった人は男性でもう一人の男性と2人組だ。


「何をそんな急いでるんだ?」

「お医者さんの所に行きたかったの。この道を下って曲がった所だって聞いたから」

「あー。だったらこっちだ。まだ下ると回り道で遠くなるぞ。俺らが先導してやるよ。いいだろ」

「あぁ」


 ぶつかった男性は私を責めることもなく。もう一人に声をかけて時間を私に取ってくれるらしい。


「ありがとうございます。お願いします。助かります」

「こっちだ。でも前見て動けよ道がそんなに広くないからな」


 そう言ってすぐに横道に入った。表通りほど陽の当たりが良くないみたいで陰の部分が多く、じめっとした空気が漂う。でもその分風が冷たい、急ぎ足で汗を少しかいた私には心地いい。


「そろそろですか?」


 横道に入って2、3分ほどで家がいくつか見えてきた。集合住宅のようで、窓が一つの石の建物に規則的に並んでいる。ホリナの言っていた下町というのが目を通して分かってしまった。


「あぁ、そこのドアのとこだよ」


 男性の指を差した方に木製のドアがある。その建物には窓が一個しかなく、集合住宅ではないのが分かる。


「ありがとうございました。本当に助かりました」


 2人にお礼を言ってドアに駆け寄る。乱暴にノックをしても返事がない。「もしかして今は留守にしてる?」嫌な予感がしてくる。返事もないのでドアノブを回す。簡単にドアが開いた。

 ただ部屋の中は真っ暗だ。乱雑に散らばった家具だけが無残にも残されているのがうっすらを見える。人が生活しているようには全く見えない。

 私は咄嗟にドアノブから離して来た方向とは逆に飛んだ。着地を考えてジャンプしたつもりだったけど思わず着地の時にバランスを崩して地面に手をついてしまう形で着地してしまう。

 さっきまで私がいた場所にはぶつかった男の手があった。そこにいた人間を部屋に押し入れるような挙動の後だった。


「思ってたよりも勘がいいじゃねーか」


 男性がこっちを見て舌舐めずりをする。さっきまでの温和そうな表情はない。今は柄の悪いチンピラのような顔だ。

 一目散に逆側に走った、だけどその先には壁が立ち塞がっている。袋小路に閉じ込められたことに私はここでようやく理解した。

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