第14話 ライバルはアリス!?
予想もしなかった場面を目の当たりにして私は動揺していた。なんでここにアリスがいるのかが理解できなかった。
「なんでアリスがここにいるの……」
アリスがここにいるはずはない。だってゲームの中ではそんな出会いなかった。あるのはヒーローを通じて少し登場するくらいだったじゃないの。
「あなたがヤンの言っていたフランソワ様ですね。お初にお目にかかりますシャバーニ=ナンジと申します」
こっちの焦りを傍目に丁寧な自己紹介をするあたり真面目なシャバーニらしいといつもなら感動する場面だけど、今私はそれより目の前の光景を受け入れることができずにテンパっている。
「フランソワ様どうされたんですか……?」
「アリスは何でシャバーニさんとここにいたの?」
不安そうに私を心配するアリスの質問をスルーしてしまってこっちの疑問をアリスに投げつけてしまう。まだ確定はしていない。たまたまここにアリスが迷ってシャバーニに道を聞いていただけかもしれない。
「えっ。私は今日シャバーニ様とお会いする約束がありましたので」
何それ。そんなのまったく知らない。そんな展開知らない。頭の中で思考がぐるぐると回っているのが自分でも分かる。
「フランソワ様。失礼ながら私には既に主としたいという方がおりまして。ヤンから何も聞いておりませんでしょうか?」
私のぐるぐると回る思考に歯止めをかけたのはシャバーニだった。
「聞いていたわ。まさかそれがアリスとは思わなかったの」
一旦心を落ち着かせるために深く息を吸って、取り込んだ空気を全て吐きだした。少しだけだが、頭に余裕ができた。
つまりはアリスが昨日言っていた人はシャバーニだったという事ね。そしてアリスとシャバーニは私よりも早い時期に顔を合わせていたと。そうでないと今日会う約束なんてできないもの。
「そうでしたか。それでは改めまして、声をかけて頂き誠に恐縮ではございますが、私は仕えたい方が既におりますゆえ、辞退させて頂きたく御座います」
シャバーニが腰から私に頭を下げる。言葉が終わっても彼は頭を上げない。私がなにか言うまでポーズは変わらないだろう。
「頭を上げて頂戴シャバーニ。あなたが頭を下げる必要はないじゃない。あなたには既に主にしたい人がいた。それだけじゃない」
私の言葉を聞き届けるとシャバーニは頭を上げて「申し訳ございません」と一言つぶやいた。彼の不器用さがにじみ出ている。
「ねぇ教えて。どこでアリスと知り合ったの?」
「アリス様が入学される前に騎士学校前の道で散らばった荷物を集めている場面に遭遇しましてその際にお話をさせて頂いたことがありまして」
なんだか少女マンガみたいな出会い方だけど、よく考えたらここは乙女ゲームの世界だったわ。でも悔しい。アリスよりも先に会えば今のアリスの場所にいるのが私だったのかもしれないと思うと悔しさがぬぐえない。
「そうだったの。でもアリスもなんでそんな所で荷物を散らばせては駄目よ。危ないし汚れてしまうわよ」
「すみません。私後ろから来た馬車を避けて時につま先を地面で引っかけてしまいまして。恥ずかしながら転んでしまいました」
「そう。でも気を付けなさい」
「お言葉ですが、アリス様は悪くございません。馬車の方が少しスピードが早かったと記憶しております」
「あらごめんなさい。あなたの未来の主を悪く言ったつもりはなかったの」
そんなジョークを言えるくらいには私も少しは余裕ができたようだ。
「ねぇ。アリス私が昨日言った事覚えてる?」
「えっと、『誰かに目を付けているか』だったでしょうか」
「それも言ったけど違うわ。気を使ってくれなくてもいいのよ。『他の人にとられては駄目よ』って言ったでしょ、それは相手が私でも一緒よ」
私はアリスに確かに言った。予想はしてなかったけど、結果がどうあれ私は自分の言ったことから、自分だけ除外することなんてできない。
「だからアリス私たちはライバルよ。私はシャバーニを諦めないわ。私の近衛騎士になってくれるようにアプローチはかける。だからあなたはあなたで死守しなさい」
これが私のアリスへの宣戦布告。アリスは置いて行かれた犬のようにきょとんとしている。
空気が少し重たくなったような気がする。心なしか息苦しい気さえする。
そんな静寂を破ったのはアリスだった。
「それは……嫌ですね。フランソワ様とはいつもみたいにお昼を食べたり、お話をして過ごしたいです」
何かを我慢するかのように声をひねり出してくるアリス。それをシャバーニはどうしたものかと目が若干泳いでいる。
「ライバルじゃなくて、私は友達がいいです。それが叶わないなら……」
「何言ってるのアリス。私たちは友達よ。それは変わらないわよ」
本日2回目のアリスのきょとんとした顔が出てきた。
「だって、ライバルだって」
「それはそれ、これはこれよ。いつも通りにお昼にも誘うし、何なら今度遊びに行きましょ。当たり前じゃないの」
「フランソワ様……ずるいです」
そう悪態をつきながらアリスは目元を袖で拭った。拭った後の顔をいつもの笑顔が戻っている。
「だからシャバーニさん! 私は私であなたを諦めないからね。そこんとこよろしくね!」
「ありがとうございます。でも私は期待には答えられないと思います」
「あなたのそういう律儀な所も好きよ」
頭をなかなか上げないシャバーニとまだ泣きそうな顔をしているアリスに「またね」と短い挨拶をして私はその場を去る。
「今日はアリスに譲るけど、私は負けないわよ」
決意を言葉にして他のヒーローを探すべく私は人があふれる校庭の方へと向かう。
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