第7話 私の推しは
穴から身体を出して、体に着いた土や汚れを払って、一歩横の壁に身体を預けながら座り込んだ。
「改めまして。フランソワよ。はしたないとこを見せてしまったわ。たまたま貴方がいてびっくりしてしまったの、驚かしてごめんなさい」
「まぁ普通のお嬢さんだな。暗殺者かなんかかと思ったよ」
「そんな事私にはできないわよ」
「だろうな。であんなとこにある穴通って何しにきたんだよ」
流石騎士学校の中でも異端な生徒。普通ならこんなため口で話してこないだろうに。これでも学院の生徒で、騎士候補から見れば将来の雇い主の可能性もあるのだから。
「俺は育ちが悪いんでな。こんな話し方しかできないから悪いな。後飯食いながらなのは許してくれ。昼飯時なんでな」
こっちの感情を読みとったかのような言葉が出てきた。
「気にしていないわ。それがあなたの良い所でもあるんだから。私は穴を見つけて思わず好奇心に負けて通ったの。だから理由は特にないわね。強いて言うなら……一目見てみたい人がいたからかしら」
そう。私の中で我慢を破ったのは推しを一目見てみたいという一心だった。堂々と歩けないのだから、見れる可能性なんかほとんどなくても、もしかしたらという淡い希望が私の我慢を破った。
「ってことは近衛候補か。誰なんだ? 俺の事調べたことあるならもしかしてアル狙いか」
「自分がその候補だとは思わないの?」
「俺はないだろ。まず家柄がないしな。いい家柄の生徒は名のある家から選ぶだろ。俺はせいぜい雇われてもその家の護衛兵だ。だから領主の娘ならありえない」
実感がわかないけどそういう世界なのよね。現代で生活してたらそんな事ほとんどないしね。そこまで家柄を気にするのはごくごく一部の上流階級、特別な家柄よね。いや、まぁ貴族も上流階級だけどさ。
「そうかしら。じゃあ私はあなたを指名することにするわ。ありえなくなくなったわよ」
これも嘘じゃない。あなたも近衛騎士団の一人に任命する気だったのだから。もちろん親友のアルも一緒にね。
「冗談きつい。それなら俺は辞退させてもらうよ。それに俺を任命するなら、目的の見たかった人物が俺になっちまうぜ」
苦笑しながら振られた。普通なら大喜びすることだろ思うんだけど。流石騎士学校の異端児という名は伊達じゃないって言うのを目の当たりにした気分だ。
「冗談で言ったつもりではないのよ。でも確かに見に来たのはあなたではなかったわ。私が見に来たのはシャバーニ=ナンジよ。知っているでしょ、あなたと同じ学年の筈だから」
ヤンが口にしていた水筒の中身を噴いた。ホースから出てくる、勢いのあるジェット噴射のような光景だった。
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