第5話 穴を潜って
聖カルデア学院の隣にヒーロー達の学び舎であるルーク騎士学校がある。
騎士学校は親元を離れて寮生活を行っている。そこに通うには貴族から平民まで幅広く、腕に覚えのある者が未来の近衛騎士となるために日々訓練を重ねている。
交流は半月に一回。お互いを分けている門を開放して学院側から騎士学校へと入り、そこで優秀な生徒をピックアップして、将来自分の近衛騎士として置く人物を選ぶ。
つまり自分から動いてイベントを起こせるのは本来半月に一度だ。
だが、私は知っている。門以外でも行き来できる場所を。その場所を偶然知ってしまったアリスはヒーロー達と知り合い、イベントを進めることで各キャラのルートに入っていく。だったら私もそこを活用させてもらうわ。むしろそれ以外のイベントの起こし方が分からないのよ。
作ってきたお昼をユリィとアンに渡して「一人で少し歩きたい気分なの」といって教室を出てきた。着いてこようとした二人を止めた後の顔が、捨てられた子犬を見ているようで罪悪感がすごかったが、私の目的は一人じゃないとできないのごめんね。
「確かこのあたりだったはずなんだけど。校舎裏から騎士学校側に回って大木の陰の茂みだったはず」
広い裏庭を騎士学校側に歩いていく、さっきまではまだ人影もあったが、ここまで来るともう誰の人影もない。好き好んでこんな木々の生い茂った場所に来るような生徒はこの学院にはいないらしい。
「あった。これね」
一際大きく君臨しているこの裏庭の主のような木の根元の先にある草垣。この草垣が陰になっていてうまく隠れた小さな穴がそこにあった。
学院と騎士学校を分ける塀に空いた決して大きくはない穴。
ゲームでアリスはここをしゃがんでくぐって行ったって言われてたけど……。思った以上に小さい。「まぁアリスはフランソワより小柄だし、そう思ってしまうのは仕方ない」と自分に言い聞かせる。
「とりあえず、場所は確認できたし放課後また来ないと」
踵を返して校舎へ戻ろうとするが、後ろにある穴が気になって仕方なくて中々足が踏み出せない。
昼休みでそんなに時間もないから、穴の位置だけ確認したら戻るつもりだったけど、穴を目の前にすると好奇心を止められなかった。自分の中で頭の中で、放課後になるまで我慢する自分と今ここで一回通ってみるべく行動する自分が言い争っている。
「ちょっとだけ。ちょっとだけよ」
また穴の方に身体を返して、草垣を分けて穴の中へ体をもぐりこませていく。陰になっているためかひんやりとした空気が漂っているのが分かる。膝を地面につけて手も地面につけて、穴の方へ進んでいく。膝と手に感じる落ち葉と土の感触がクッションのように柔らかい。
人の頭2つ分くらいの厚さの石垣を抜けて、顔を出す。目の前にあるのは学院の裏庭のような木々の生えた場所。少し先には学院とは違って、少し簡素な壁づくりの建物があった。あれが騎士学校の校舎なのだろう。学院からは建物の上に上がらないと屋根位しか見えないので実物を見たのは初めてだ。
突然風が吹いて木から落ちて来たのか葉っぱが私の顔に飛んできた。鼻を掠めて刺激されて盛大なくしゃみがでた。体を支えていたせいで鼻を手で覆えなかった。鼻水は出てないみたいだったが、見られていたらフランソワの笑い話として学年の話題となっていたかもしれない。
いや、まぁ穴くぐってる時点で笑い話なんだろうけどさ……。
「あんた、誰だ……?」
声のした方に顔を向けると怪訝そうな顔をしながらこっちを見つめるイケメンがいた。手には茶色の堅そうなパンと水筒。お昼中だったらしい。
知っている。この黒髪セミロングの細見の釣り目のイケメンは……。
「ヤン!」
「それは俺だ。いや、だからあんた誰だよ……」
呆れ声で彼は2回目の疑問をぶつけてきた。
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