第4話 退屈は令嬢ですら抗えない

 授業の時間は何が起こるわけでもなく淡々と過ぎていく。ゲームだと授業のパートはほとんど描写なかったしこんなものよね。

 読み書き、計算、歴史。やることは元の世界と大きく変わりはない。難しいのは歴史で1から覚えなおさないといけないのが大変だ。むしろ計算方法に至っては中学生レベル、この世界感で経理とかしたら無双モードに入れそう気さえする。


 休憩時間になると私の周りに率先してユリィとアンがやってくる。それはもちろんお昼の時間も例外じゃない。


「本日は私がお弁当を作ってみましたの。食べてみてください」


 アンが得意げに籠を差し出してくる。中には黄色と緑とピンクの彩豊かな具材が満載のサンドイッチが入っている。「レベル高いなぁ」と内心感心する。


「頂くわ。ありがとうアン」


 さっきのアリスのようなハニカミ笑顔を意識してお礼を言ってありがたくサンドイッチを頬張る。「明日は私のお弁当ですね」とユリィが笑顔で言う。フランソワあんたヒモ生活だったのか。


「アン。アリスさんは元気だった?」

「どうされたんですか。突然」

「今朝ぶつかってしまったので、気になったのよ」


 アンは隣のクラスなのでアリスの事を尋ねた。


「普段通りでした……。でもまたぶつかるなんて失礼ですわ」


 アンが口を尖らせて嫌悪感をあらわにした。さっきまでの顔とは違いそこに愛嬌は全くなかった。さすがフランソワの取り巻き。フランソワ以外には厳しい。


「先日あれだけきつく注意したのに、またフランソワにぶつかるなんて。アリスさんには呆れますわ。もう一度注意された方がいいのでは?」


 フランソワ最初の邂逅でそんなにきつく言ってたっけ。家の大きさで嫌味言ってたような記憶しかない。

 むしろそんなに言ったのに、今朝名前呼ばれただけでお礼行っちゃうアリスすごすぎない? メンタル鋼か。


「先日はあれだけ怒りをあらわにしていたのに、本日は心配されるなんて。やはりフランソワ様はお優しい方ですね」


 いやユリィ考えてみてね。まず優しい優しい人はぶつかっても嫌味言わないし、注意なんかしないから。どんだけプラス思考なの。



 お昼からの授業もつつがなく終わった。2時に終わり、帰りのための馬車を見つけて乗り込む。今朝の要望通りに敷物が2枚になっている。ありがたい。


「お疲れ様でした。本日はいかがでしたか?」


 そう微笑むホリナの笑顔は疲れた体に癒しをくれた。今日は授業よりもあいさつで疲れた。明日から適当にあいさつを返していくことにしよう。


「そうね。なにも無かったわ。なさ過ぎてびっくりよ」


 今日1日登校して分かった。授業は苦痛だ。学んだことを再度レベルを落として学習する時間は拷問のようにも感じられた。そして当然のことだがゲームと違って時間はリアルタイムで1秒ずつ進んでいく。選択肢は出ないし、選択肢毎に場面が飛ぶこともない。

 自分でイベントを起こして行かないと退屈で死ぬ。今日はそれを学ぶことができた、大収穫だ。


「ホリナ明日からは私もお弁当を作るわ。帰りに材料を買っていくわ。帰ったら厨房を案内して頂戴」


 ホリナが驚きのあまり倒れた。

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