第2話 登校初日
目が覚めると昨晩寝る前に脳裏に焼き付いた天蓋が広がっている。一晩寝ても夢が覚めないというのだから、今自分の身に起きている事は現実なのだと再認識した。
「私のリアルは今ここにあるのね」
自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
ベッドから降りて、洋服棚にある中から昨日見繕っておいた洋服を取り出して着替えていく。ドレスには昨日試験的に着替えていたので、昨日ほどは苦戦せずに着替えることができた。
ドレッサーの前でナチュラルメイクを施す。自宅にあったものとはどれも違うものでも、メイク道具という根本では変わらない。急ぎながらでのメイクになるのは癖だ。そう簡単には朝の用意癖は抜けない。
部屋を出て朝食のために広間に向かうとホリナがいた。
信じられない物を見るかのようにこっちを見て目を見開いている。
「フランソワお嬢様。どうされたんですか……。着替えからメイクまで自分でされているなんて……」
フランソワはいつもホリナにさせていたのか。お嬢様すぎて私もびっくりだわ。
「そういう事もあるわ、そして明日からはそういう事が続くことになるわ。それより朝食を食べて早く学院にいきましょう」
馬車に揺られて30分ほどで学び舎の前へと到着した。思った以上にお尻が痛い。明日からは座席の敷物をもう一枚増やすように同車のホリナに伝えて馬車から降りる。
眼前に広がるのは大きな西洋門。そこへと吸い込まれていく生徒たち。ゲームの画面の静止画とは迫力が違う。
「フランソワ様おはようございます。昨日は大変でしたね」
「おはようございます。ユリィ。昨日は心配をお掛けしましたわ」
同じクラスにいる(はず)のユリィ。取り巻き一号としてファンの中では呼ばれている。取り巻き二号のアンはここにはいないようだ。
「なんだか今日は少し雰囲気が違いますわ。どうされましたの?」
「いつも通りよ。どうして?」
「いつもならもう少し言葉に迫力があると言いますか、今日は失礼ながら丁寧な気がしまして……」
それ良いことじゃない? あれ私の方が間違ってるの?
まぁ確かにフランソワは高飛車お嬢様って感じだけど。いきなりやれは難しすぎないですかね。私おとといまでOLだったんですけど。
「そうね、いつも通りにするわ。おはようユリィ。私がいなくて寂しかったでしょう」
「そうそう。その通りです!」
やっぱりこれが正解なのね。言っててムズムズしてくるわ。
不思議に思うのは、この体は日常生活のルールが分かるという事、教室までの道までも頭の中にあるということだ。ゲームをやってても道程までは分からないのに、知っているかのように思い出せる。これがなかったら家の中でも何回迷子になったか怖くなる。
教室につくまでに何回挨拶をされたか分からなかった。流石は名家の娘パワー。
席に着くと周りに男女共が集まってきて心配の言葉を投げかけてくる。慕われ過ぎでしょフランソワ。今日で一生分のあいさつをしたようにも感じる。
ただ今日は見ておきたい顔があった。それは恐らく隣の1-1にいるはずの主人公アリスの顔。
「少し歩いてくるわ」
立ち上がると自然と人の壁に通るためのスペースができる。私はモーゼか。
教室を出ると共に人にぶつかった。私はしりもちをついて、相手もしりもちをつく形となる。
「痛てて。ごめんなさい。怪我はない?」
前に居たのは私が見に行こうと思っていたアリスだった。
綺麗な金髪が目にまぶしく、可愛く思わず庇護欲の湧いてしまう幼い顔だち。青の瞳に見つめられると思わず吸い込まれそうになる。
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