悪役令嬢になりましたので、自分好みの近衛騎士団を作ることにしました

葉月 キツネ

第1話 プロローグ

 目が覚めて、最初に目に飛び込んできたものはファンタジーの世界に出てくるような天蓋の一部だった。夢でも見ているのかと錯覚を覚える。左には大きな窓があって、右にはドレッサーや、自宅には大きすぎる洋テーブルがある。そして窓からは太陽の光が部屋を明るく演出している。

 そんな見たことのない部屋の光景にやっぱり自分が夢の中にいるのだと再認識した。もう一度寝よう。起きたらまた嫌な残業続きの仕事に行く現実が待っている。


「フランソワお嬢様。そろそろ起きていただくお時間になります」

 

 ドアの外から女性の声がした。丁寧な口調にお嬢様と呼ばれるのはなんとも幸福な気分になる。

 こちらの返事がなかったからか声の主がドアを開けてこちらに寄ってくる。


「フランソワお嬢様。珍しく起きてこられないのですが、具合でも悪いのでしょうか?」


 目じりを下げて心配そうに顔を覗き込んでくるメイド姿の女性。可愛い系で合コンにいたら男相手を虜にできそうな甘い笑顔が似合いそう。思わず彼女の頬に手を伸ばしてしまう。


「えへっ。可愛いやんけぇ……」

「どうやら体調が悪いようですね。学院の方には連絡してお休みに致しましょう」


 そう言い残して部屋を出ていった。一瞬の事だったが、目が覚めてしまった。

 夢の中でここまで自分の意思がはっきりしているのは初めてだ。ならこの夢を堪能しないともったいない。

 目を擦って、ベッドから降りて窓の方へ向かう。日差しが寝ぼけた頭と視界を明瞭にしていく。眼前に広がる噴水のある大きく広がった庭。ここはどんな設定なのか。

 設定と言うと頭に引っかかる言葉があった『フランソワお嬢様』その名前は乙女ゲーム『白銀の騎士物語』に出てくるキャラの名前だ。

 昔やりこんだゲームの設定が夢になるとは……。相当現状に不満があったのかもしれない。


「さて。とりあえず状況整理しよか」


 明かりをつけて部屋の中を見渡す。現実では見た事もない装飾に広い部屋。見たことあるのはゲームの中でだ。

 ほっぺを三回両手で思いっきり叩いた。まだ少しまどろみの中にいた頭がさえてくるのと同時に、痛みが走る。


「えぇ……。これリアルなの……?」


 突然の事態に頭が混乱しているが、まぁそうなったものは仕方ないと割り切れるのは自分の長所であり、短所でもあるとは自負してる。


「フランソワお嬢様。立ち歩かれても大丈夫なのですか?」

「だ、大丈夫よ。それより少し聞きたいのだけれどいいかしら」


 自分の中での精一杯のお嬢様言葉を選んで問いかけた。


「えぇ。何でも。それでも良かったです。さっきの変なしゃべり方はやっぱり寝ぼけていただけだったんですね」

「そうかしらね。多分そうよ」


 気がゆるんだりすると出てしまう関西弁。今後は気を付けないとまた体調が悪いと思われてしまう。


「それで今日は何年の何日? 学院は何か言ってきた?」

「本日はアルガド歴1856年4月の12の日になります。学院の方からはご心配されており、1日でも早く良くなりまたお顔をお見せ下さいとのことです」

「ありがとう。ホリナ」

「いえいえ。それでは下がりますので何かご要望がありましたらお呼びください」


 きれいなお辞儀をして部屋を去って行った。

 間違いなくここは『白銀の騎士物語』の設定になっている。専属メイドの名前、アルガド歴。そうなると恐らく学院は『聖カルデア学院』。今の私が通う学院で、本来このゲームの主人公も通っている学院。

 そして今の私はフランソワ。ポジション的には主人公のアリスにちょっかいをかける立場。いわば引き立て役にほかならない。

 与えられた立場が悪役なんて……。どうせなら主人公になってVRゲームで楽しみたかった。

 姿見の前に立って自分の顔と体を見直す。


「フランソワって普通に美人なのよね。プライドが高くてアリスにちょっかいさえ出さなければ別に悪くないんじゃないの」


 考えてみたら美味しい状況にいる事が分かってきた。屋敷住みの美人令嬢、中身は私なんだから言動と振る舞いに気を付ければ……。

 行けそうな気がしてくる。私の推しキャラ落として、普通に楽しめそうなんですけど。

 そう思うと自然と笑みが湧いてきた。とりあえず今日1日を使って考えましょう。今の状況と今後の方針を。


「ホリナ! お腹が空いたわ。朝食にしましょう」


 ドアから顔をだして専属メイドの名前を叫ぶ。

 とりあえず考えるのはお腹を満たしてから。空腹だと良い考えも思いつかないんだから。


 朝食のハムエッグとクロワッサンを食べ終えて紅茶を啜りながら考えを巡らせる。

 まず前提としてフランソワの最後はいい結末ではない。カルデア学院を卒業時に領地当主となって、その後は領民の反感を買って失墜していく。

 カルデア学院に通う者はみんな隣の騎士学校から自分の近衛兵を選んで卒業していくのがこの話の大筋だ。アリスは卒業後選んだ近衛兵と恋仲になるというのがエンディングとなる。逆にフランソワはエンディングまでアリスにちょっかいを出しては、領民を省みないことで最後にはBADエンディングとなる。


 そうなるとまず私がしなければいけない事は……

1つ目は性格をおとなしくし、領地を継いだ際に領民にとってプラスとなる施策を行う事でBADエンディングの回避。

2つ目は自分の推しを近衛兵にすることでの幸せ。

3つ目は本来1人しか選べない近衛兵を複数人選ぶことでの推し軍団の設立。


 1つ目は遠い先3年後の話だが、私が気を付ければ済む。2つ目と3つ目が今しなければいけないことだ。推し近づいて好感度を上げて、こっちについてくることを承諾させる。そしてそれを複数人選んで全員領地に連れ帰る。そして私の推し近衛兵団ができあがるのよ。最高じゃないの……鼻血が出そうになるわ。

 ホリナ曰くはまだ入学からそんなに日にちがたっていないはず。半月に一回の騎士学校との交流も初回はまだのなのだから、まだできる事は多いはずよ。頑張れ私。

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