異世界生活13―Ⅰ
――AM9:00――
朝食を終えた私は、ライセルさん達に使用人部屋の家具の移動と掃除を頼み、神社へと向かっていた。
流石に、ベッドやクローゼットの移動は女の私には無理!!レティシアさんの部屋だって精々が、目の届く範囲の拭き掃除だったもんね。
力の有る男手がいてくれて助かった!!
「家内安全の御守りと、恋愛成就の御守りを三十個ずつ下さい」
そういった瞬間、窓口に立つ巫女さんの顔がピタッと固まった。
そしてゆっくりと眉にシワが寄り、片方の頬がピクピクと動き出した。
「はいぃっ!!?」
「だから、家内安全の御守りと、恋愛成就の御守りを各三十個ずつ。それと、祈祷をお願いしたいんですが」
普通、そんな注文をする参拝客は居ない。
それもそうだ。たって普通は、自分用か他人様に精々二、三個買う程度だろう。それが各二十個。
追加で『祈祷』何て言葉が出た日には、「何言ってるの?この女は!?」と言う目を向けられる。
「あの……お客様。御守りと言うのはですね、お一つでもお持ち頂けていればそれで効果は十分なのですよ?」
暗に「そんなに買い占めるなよボケ!!」とでも言いたいのかしら?
「あらやだ。ごめんなさいね?欲しいって知り合いが多くて、どうせなら皆さんでお揃いにしましょうって事になったの」
さも、「そんなに買い占めてすみません」的な顔を作るけど、売れるんだし神社としては問題ないでしょ?
「そ、そうですか……。それではお会計がーーーーー」
こんなに大量に御守りを買って。次にまた同じように買いに来たらきっとここでも顔を覚えられるんだろうなー。いや、既に覚えられたかも。
祈祷を終えて、先程の売店前を通り過ぎた真理を見て、巫女さん達がコソコソ話しているのが聞こえていたし。
次に行くのはホームセンター。
買うものは、異世界で採れたあの種を撒くための道具。
普通に直撒きでも良いのだろうけど、物によってはポットで育ててからの方が管理がし易い。
最初から成長する大きさにあわせて巻くと、三十センチも間を空ける必要があるし、そうなると水やりだって結構な範囲になって大変だ。かといって詰めて蒔けば風通しが悪くて、虫の被害が深刻だ。
野菜や薬草類様に黒の連結ポットと三号ポットを木の種っぽいのには六号ポットを購入した。
ガラガラとカートを押していく。肥料コーナーで前に見かけた『種蒔き培養土』と言うのを試して見ようと思う。
これなら直撒きの元肥の配分が分からなくても安心して苗が育てられる気がしたから。
初心者にも安心して気軽に使える『種蒔き培養土』何て素晴らしいのかしら!!
後は、農薬よね。果たして農薬って何処まで使えるんだろう?そもそもあそこの土地は一度瘴気に汚染されたんだよね。
そうなると、普通に撒いて良いものか、それとも地力自体上げる必要が、有るのか解らない。
目に止まったのは『木酢液』と言うもの。
え~と。なになに?3リットルの水に15㎜lの本液を入れると植物の活性化になります。
生ゴミの上に本液を掛けると臭いの防止並びに分解促進に繋がります。
濃度を変えると、犬猫避けにも出来るんだ。土壌の微生物の活性化に、根の張りを促進したり、生ゴミの臭い予防にも。野菜屑の発酵を促したりと……。
おおっ!これは万能じゃない!?
普通にそうでしょ!?
何このマルチプレーヤー的な文言は!!
買いでしょ買い!!絶対にこれは役に立つよね?きっと!!
後は、『液肥』かぁー。
これも希釈で使うのね。確か、野菜の育て方に出てきたよね。
『ニラ等の収穫後にお礼肥として散布します。』って。
じゃあ、これも買っておくかな?
なんて、以前に野菜の育て方を調べた最に出てきた名前の品を幾つかカゴに入れてお会計を済ませた。
***
――14:00――
「ただいま戻りましたー。わっ、綺麗になってる……」
レティシアさんのいる家の中。私が出入りする鏡の置かれた部屋は元の世界に帰るとき、未だ掃除の行き届かない薄汚れた印象の部屋だった。
その部屋が、綺麗になっていた。窓の黒ずみも、照明に掛かっていたホコリも無い。ついでに布団も今は何処かに運び出されているのか、見当たらなかった。
あいも変わらず多すぎる荷物の、優先順位の高い『御守り』を持って廊下に出る。
ガタゴトと家の食堂辺りから音がしていた。
歩みを進めると、男性陣でキャビネットやテーブルを退かして床や高い位置の掃除をしているところだった。
大掛かりになってる……。
予想以上に彼らの仕事は丁寧だ。そして重量物を退かして床や壁も綺麗にしてくれていた。私一人じゃ到底出来るわけも無いから助かった。
「ただいま帰りましたー!」
「おかえりなさい。真理さん」
「お帰りー、真理!」
「お帰りなさーい」
「凄いですね。奥の部屋も随分と綺麗になっていたし、家具の裏までやって頂いて感謝しています」
「もう少しで終わりますから、あっちのソファで座って待ってくれますか?」
「はい。じゃあレティシアさんも誘ってきます」
「レティシアさん、具合は如何ですか?」
「お陰さまで、大分良くなりました」
「レティシアは、頑張っておるぞー!」
ベッドから降りたレティシアさんは、白稲荷の雪と歩行練習に明け暮れていた。
真理が眠っている間に雪は一人でレティシアの元を訪れて、その側に付き添っていた様で二人は仲良しだ。
レティシアさんの顔つきも大分改善された。まだ少し頬が痩けている感は有るものの、当初より肉付きも良くなったし、顔色も良い。
栄養の有る食事を取り、よく休み、そして体を動かす日々。きっと後もう少しで元の体調に戻れるはず。
「居間にお茶を用意します。ライセルさん達も休憩にするので一緒に如何ですか?」
そう言って、居間まで誘い出してみた。
キッチンでお茶の用意をし、暖炉前のソファーに食器を並べ始めた所で、掃除を終えたライセルさん達が戻って来た。
「レティシア様と雪様もいらしたんですね」
「お茶菓子も出ると、お呼ばれしたからのぉ~♪♪」
「はい。真理さんに一緒にお茶にしようって誘われましたので」
以前、天蓋の薄布越しに合ったときよりもかなりマシになったのだと言うレティシアの外見。
長かった金色の髪は見る影もなく、首筋にすら届いてはいない短な物に。白石の肌は、以前の様な張りに欠け、細ばった腕や痩けた頬を見る度にライセル達、騎士の心は痛みを覚えた。
「お疲れさまです。やっぱり、男手があると随分と違うものですね」
コポコポ、カチャンと、リディアはお茶を入れ、異世界のお茶菓子を取り出していた。
「このぐらいお安いご用ですよ。」
にっこり、ライセルさんは優しげに微笑む。
「真理さん。それは~?」
食いしん坊騎士ラーフィ。目敏く、新手の食べ物に興味を示してきた。
「これは、カステラって言うの。卵と小麦粉のお菓子で、ケーキみたいな生地かなぁ?」
カステラならお供はコーヒーと行きたい所だけど、この世界にコーヒー文化は有るのかな?
「そういえば、この世界にコーヒーって有るの?」
「いいえ?はじめて聞く名前ですわね。どう言った物ですか?」
え~と、どう言うのだっけ?
エチオピアとか暑い地方の植物で、実が成って、熟したら中の種を焙煎してコーヒになるんだったかな?
あれって、生育気温とかどうなんだろう?
インターネットで苗木って買えるのかな?
あ、TVで出ていた人神奈川だっけ?コーヒの木を植えてたよね。雪が降っても意外と大丈夫なのかなぁ?
色々疑問だらけだが、珈琲党の真理としては自給自足を目指すならコーヒの木は欲しかった。
「え~と、何と言うかな。コーヒーの木って言う木があって、その木の種なんだけど、それを焙煎……空入りして粉にして煮出すんです。美味しいのだと芳ばしくて産地によっても香りや味が違くて、苦くて美味しいかな」
「苦くて美味しいんですか?」
「そうなの。苦いのが苦手な方は砂糖とかミルクを入れるの。うんと甘くすると子供でも飲めるよ」
「へえ~。それは旨そうだな。俺、甘い方が良いなー!」
「あ、僕も!僕も甘い方がいい!」
異世界の皆さん、コーヒーへの食い付きが良いのね。今度、インスタントでも買ってこようかな。それともドリップ?アルコールランプで落とす、スッゴい昔の前に実家にあったんだよね。使ったこと無いけど……。
探せば何処かで売ってるかなぁ?
「あまーい!!」
「何これ甘い!ウマイ!!」
「これも美味しいですわね」
「ウムウム。美味じゃのぅ~♪♪」
「……成る程。もしかして、このカステラとコーヒーの組み合わせが真理さんの好みと言うことですか?」
「そうなの。甘いものと苦いものの組み合わせね。甘いのの後に苦いコーヒーを飲むと口の中がサッパリするから好きなの」
洋菓子にはコーヒーか紅茶。
和菓子にはお茶。
それぞれ合うものが違うからね。組み合わせの好みとだけど。
「異世界の食べ物って、色々有るんですね。前に御馳走になった、シャインマスカットも美味しかったし」
「シャイン……?レティシア様、それは何ですか?」
ラーフィが興味津々と言う顔をした。
「翡翠の粒の様な色合いで、皮ごと食べられる葡萄なの。かじるとパリッと皮が弾けて、噛めば噛むほど甘い果汁が口いっぱいに広がって…………美味しかったわ!」
目を瞑り、味を脳内に想像させるラーフィ。
「真理さん!!僕もシャイン……その葡萄食べたいです!!今度お願いします!!」
あああーーー。ラーフィ君の食いしん坊が炸裂しましたね。目をキラキラ…ギラギラ?させてヨダレでも垂らしそうな顔で、痩せればそこそこなのにぽちゃっとしてて、目は意外と大きくてつぶらに見える。太ってても愛嬌が有ると言うか、憎めない系かな?
短めに切られた茶髪と濃いめの緑の瞳。清潔に心掛けているのがわかる出で立ちは、不快ではないのよね。
何より、食べ物の前にした彼は、輝いていた。
「あははーー。うん、そうね。今度買ってきます」
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