異世界生活2―Ⅱ
お昼は、簡単にカップ麺で済まして、レティシアさんの部屋から持ち帰ったカーテンとソファカバーを洗濯して干した。
そして、再びホームセンターな訳だけど。
昨日から通算三度目の来店。
何でしょうね?あと何回ホームセンターにはお世話になるのかしら?
こっちの世界の軍手と鎌は、あちらの世界で神ってるし、高枝切りも、そうだと良いな。
安いものだと2780円。お高いものなら7980円。機能的に何が違うのか?
……あ、伸縮率か。高い方は、最長五メートルになってる。
あとは刃物の材質?う~ん、そんなに予算もかけられないしなぁ……。
3980円のでも2,7メートルは、伸びるのか。軽量タイプとか書いてあるし、これで良いかな?
あとは園芸コーナーのフルイだよね。あの草を苅った後にでるキラキラのガラスみたいの集めたいし。
ガラス瓶は食器コーナーか、予算を押さえるなら100均でもいいかなー。
ホームセンターのガラス瓶は、大瓶を三つと中くらいのを五つ買って、太陽光充電式のガーデンライトも10個程購入した。
流石に今日は、万を越える出費で、あといくら異世界につぎ込むのかしら?と、内心戦々恐々ものになる。
まぁ、あのまま何も無くても、ただ家に隠って泣きはらしてるだけだったけど。やることが有るってのは、良かったと言えば良かったのかな?
家に帰る。
引っ越し業者に引っ越しキャンセルの電話と不動産会社にも同じ趣旨の電話をかける。
引っ越しの方は、キャンセル料として三万を支払うことに、不動産の方はまだ次の住み手が無かったからそのまま継続できた。
これで、住まいは何とかなったぞ!
レティシアさんのお粥を作り、タッパに詰めて高枝切りとか諸々大荷物を抱えて異世界お掃除午後の部ね!
――PM2:00――
「こんにちはー。レティシアさん起きてる?」
意識が有れば現れるらしい魔法の鏡の中からは、うんともすんとも返事は来ない。ミイラレティシアさんは、肌の黒ずみは大分消えて、白ミイラのレティシアさんになってきている。
あ~、もしかして消化に時間がかかるのかな?それなら帰りにまた様子を見て、今は庭を片付けますか。
取りい出したるは、お値段3980円の高枝切り挟み。伸率2,7メートルを誇ります、女性でも楽々軽量タイプの高枝切り挟み。対するは、目算で直径3センチを超えます真っ黒な瘴気木の枝。
枝に、高枝切り挟みの刃を当てて挟む。
ストンッ。
はっ?ストンッって、なに?
木なら程度の差は有るにしろ、こんなにも簡単に伐れるわけがない。
実家で植木の剪定を手伝ったとき、もっと硬くて手に力を込めたのよ?それなのに、今のはまるで……そう、長ネギをキッチンバサミで切るくらいの感触!!
いやいやいや、有り得ないでしょーー!!?
それでも、切れて落ちてくるであろう50センチ程の枝の落下に備えて黙視しているけど……あれ?落ちない???
コンッ!!コロコロ…………。
変わりに落ちてきたのは、木の実だった。
掌に乗せて、だいたい4センチぐらいの大きさをして、真ん中には何か模様が書いてある。
う~ん……。これ、食べられるのかな???
取り合えず、ゴミ袋に入れて確保しておこう。
おっ、屋根に掛かるぐらい延びていた枝をちょこっと切っただけでも、日差しが地面にまで差し込んできたよ♪♪
よし!続きもどんどん切ろう!!割りと太い枝が、長ネギ程度の感覚なら疲れないもんね~♪♪しかも、切り屑が出ないのは有りがたい!!
何せ、作業スペースが家の外壁から30センチだよ?狭い狭い!!
屋根に掛かるぐらい伸びた木の枝を切り落とした事で、ようやく家の中にも日差しが射し込めるようになったかな?と、振り返ると、窓が真っ黒だった。
ありゃっ!!?折角枝を切って、日差しが入ると思ったのに、外の窓は墨でも塗ったかのように真っ黒け……。
オーノー!!これも瘴気の影響ですか!?
でもまあ、枝が引っ込んだ分、庭はには日差しは入り込んでいるから良しとしますか!!
枝が終わったら、再び家の周りの草刈りよ!!
レティシアさんの部屋周辺の屋根に掛かった枝を取り払うと、庭の中にも夕方の柔らかな朱の光が射し込めて、黒い瘴気草がサワサワと揺れていた。
「レティシアさん起きてる?」
『はい。何とか……。でも、何だか体か大分楽になった気分ですね』
鏡の中のレティシアさんは、ほんのり桃色に頬が染まって本当に可愛らしい。
「そうだろうね。もう黒くないし、まだミイラ感が強いけど、綺麗な肌色になってるよ」
『まあ!本当に!?だからこんなにも体が軽い気がするのですね♪』
鏡の中のレティシアさんは、嬉しそうな笑顔を見せた。めっちゃ可愛い!!そしてキラッキラの眩しい笑顔!!
うわっ……天使の笑顔ってこう言うのを言うんじゃないの!?
白っぽいミイラレティシアさんの口に、お粥を一匙ずつ流し込む。
約半分くらいは、食べてくれたけど、固形物への道程は遠いんだよね。
「それじゃあ、また明日来るね」
『はい。宜しくお願いします』
×××
――日本――PM18:20
ビルの中からふわりとした薄紅色のワンピースの女が出てくる。その後を追う人の気配に気付かないのかその足取りは至極軽いもの。
「あれ、どこに行くんだと思います?」
目の前を歩くゆるふわ女は、駅とは反対方向に歩みを進めていた。
「さーね。ただ、今日は桜掴の会社残業なんでしょ?」
「あー、なんか大きいイベントが近いとかで?営業も会場の設営とか裏方に総出で当たるんだとか」
「イベント会社だっけ?あっちの会社は」
「らしいですねー」
と、なると真理の元婚約者との逢瀬では無いはず。それなら足取り軽く、どこに向かうと言うのか。怪しさ爆発、疑惑の女全開である。
矢田と仁科はそれとなく浅井の後を付け、程なく小洒落た居酒屋に入っていった。
浅井はそこで、女友達と女子会に参加しているようだった。
それとなく二人も、その席の話し声が聞こえる位置に席を取る。
「由香りんおめでと~!!」
浅井の座った席には他に三人の女がいた。年も彼女と同じくらいで、矢田と仁科は浅井の学友なのだろうと、判断した。
「いやまじ。あの由香が結婚ねぇ~」
「あのって、何よぉう!人の幸せにケチ付けないでくれるぅ?」
黒髪ストレート、肩口に切り揃えたややきつめの女がそう言うと、甘い猫撫で声で浅井は抗議の声を上げた。
「だってねぇー。ま、幸せになれるなら良いかな。……その、婚約者さんには悪いけど。赤ちゃんってやっぱり強みなんだね」
「そうよぉ。赤ちゃん出来たんだから仕方がないのよ。子供が幸せになる権利は、誰にも邪魔なんて出来ないでしょ?優良物件は、早い者勝ちなんだから♪♪」
浅井がそう言うと、三人の女達は一瞬何とも言えない顔で、浅井を見たりお互いの顔を見合わせたりしていた。
その後は、話題が変わりとりとめのない話をしていた。
「ねぇ、今のどう思う?」
「赤ちゃんが幸せになる権利?それに、優良物件って……?……何か、他の人に変な間があったよね」
顔を見合わせ、何とも言えない表情を浮かべていた。
その様子に、二人は何となく違和感を覚える。
もしも、浅井のお腹の子が桜掴の子供ならそんな風には成らないだろう。
なんて事がチラと過ると、矢田は血の気が引く思いがした。
「まさか……」
同じように感じたのか仁科は矢田の方を向き、矢田と仁科は顔を見合わせる。
「えっ……だとしたら何で……?」
お互いに同じ疑惑を抱いたから。
浅井のお腹の子供は、桜掴の子供じゃない
それならどうして、本当の父親と一緒になろうとしないのか。どうして、真理の結婚の邪魔をしたのか。
本当の父親は、誰なのか。
思わぬ疑問が増えた。
「これ、真理に言う?」
「いや、今はまだ早いでしょ。まだかもしれないって、だけなんだから。もう少し、探りをいれて、真実が分かるところで教えよう」
「そうですね。……にしても、人の幸せ踏みにじって、何が幸せになる権利なんだか!」
仁科は浅井に対して小さくない怒りを抱いた。
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