上手
吉川 「前にWEBで小説を書くサイトで書いてるって言ってたじゃん?」
藤村 「あぁ、書いてるよ。誰も読んでないけど」
吉川 「実は俺もそこで小説を書いてみたんだよね」
藤村 「いいじゃん! どんなの?」
吉川 「異世界転生のやつ」
藤村 「これまたえらい人気のジャンルに飛び込んだな」
吉川 「他に思いつかなかったから」
藤村 「でもいいんじゃない。そういうので。あんまり誰も読んでくれなくても落ち込むなよ。そういうものだから」
吉川 「そういうものなの?」
藤村 「ほとんどの人は読んでもらえないんだよ。ああいうサイトは圧倒的に読者不足というか。基本やっぱり書き手にとってのサイトだから。もちろん読み専の人もいるけどね」
吉川 「読んでもらえてないってわけじゃないんだけど、コメントがさぁ」
藤村 「来ないだろ?」
吉川 「来たんだけど」
藤村 「来てるの? おいおい、すごいじゃん。なかなかコメントまで書いてくれる人少ないよ?」
吉川 「でも結構辛辣なこと書かれててさ。ありがちとかパクリとか」
藤村 「なるほどなー! 確かに異世界転生となると、そういうことになるのか。そんな群雄割拠なジャンルで書いたことないから」
吉川 「そういう時ってどうすりゃいいんだろ?」
藤村 「俺だったらむしろ相手を褒めるけどな」
吉川 「すごい懐の深さを見せるなぁ。とてもそんな気持ちにはならないけど」
藤村 「そこは人間ができてるから。『読んでくれてありがとうございます。日本語上手ですね』って褒める」
吉川 「嫌らしい! なにその皮肉」
藤村 「褒めてるから。褒められて嫌な気持ちになる人はいないから」
吉川 「なるだろ、それ! 日本人だよってキレ散らかすだろ」
藤村 「そうしたら『またまた、そんなことないですよぉ』って返せばいい」
吉川 「褒めの体勢を一切崩さずに相手にダメージを与え続けてるじゃん」
藤村 「褒めてるから。大人の社交術だから」
吉川 「それが大人の社交術だったら大人になりたくないよ! なんでお前が謙遜するんだよってキレ弾けるだろ」
藤村 「そしたら『字が読めて、文章が読めるなんてすごいです。これで意味もわかるようになったら、ネイティブ並みって言ってもいいくらいです』って言えばいい」
吉川 「よくその姿勢を崩さずに殴り続けられるな。これは腹立つよ。意味わかっていってんだよ、ってキレ突き抜けるだろ」
藤村 「そしたら『またまた、そんなことないですよぉ』って返せばいい」
吉川 「パターン入った! それループでコンボが永遠に続くやつ? 相手の反撃にかぶせてガード不能で浮かせるやつだろ」
藤村 「こっちは褒めてしかいないか。本当にそう思ってるだけで」
吉川 「本当にそう思ってるから余計にたちが悪いんじゃない? 急に嫌なことを言われた時によくそこまで有効な反撃の体勢をとれるな」
藤村 「相手の強い力には優しさで対抗するのが一番だから。柔よく剛を制すって言うだろ」
吉川 「柔よくで一本取ったあとに絞め殺してない? 何言われてもそれで返せるの?」
藤村 「あとは『大丈夫です。それでちゃんと通じてますよ。ありがとうございます』とか返しておけば」
吉川 「こっちがおかしいのかと不安を煽ってくるじゃん。精神的なデバフ攻撃もあるの?」
藤村 「この一連のやり取りは汎用性が高いから。普通に褒めてきてくれた人に誤爆した場合でも問題ない」
吉川 「基本褒めだから?」
藤村 「そう。相手のことを本心から褒めようと思ってる愛しかない言動だから」
吉川 「よく愛しかないとか言えるな。あそこまでの致命傷を与えておきながら」
藤村 「あ、わかりました? 日本語上手ですね」
吉川 「ヒィッ!」
暗転
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