乗っ取り

藤村 「イヒヒヒ。この身体は俺様、悪魔が乗っ取った。実体さえ手に入れてしまえばもうこの世界は俺様の思いのままさ」


吉川 「なんてこった! 藤村、目を覚ませ」


藤村 「無駄無駄! どれほど頑強な精神を持つ者でも悪魔の力の前では蟷螂の斧よ。もはや藤村の意識なんて消え去ってしまってるかもな」


吉川 「そ、そんな……。藤村ー!」


藤村 「ぅぐあ! な、なんだ? これは一体!? ……吉川、頼む」


吉川 「藤村!? 藤村なのか?」


藤村 「もうもたない! 俺の意識があるうちに、頼む! 俺の……」


吉川 「まさか!? そんなことできない! お前を殺すだなんて。たとえ悪魔に乗っ取られそうになっていたとしても」


藤村 「頼む……。俺の意識があるうちに、俺の借りてた2万円を帳消しにしてくれ」


吉川 「え。2万? え? それ、悪魔と何の関係が?」


藤村 「ぐわぁああ! ダメだ、もうもたない! 早く! 早く決断するんだ!?」


吉川 「え? だって。2万て。この間の?」


藤村 「ハァハァ! まったく往生際の悪いやつだ。この俺様に楯突くとはな。そもそも意味のない話よ。この悪魔の手にかかれば2万など回収できるわけもない。無駄なあがきだったな」


吉川 「まぁ、確かに。悪魔になっちゃったあとで、この間の2万のことだけどって言いづらいわな。そういう意味じゃ、もうしょうがなかったのか。釈然としないけど、藤村の最後の願いくらい聞いてやるべきだったな」


藤村 「ぅぐわぁ! ……吉川! 頼む!」


吉川 「あれ? 藤村? まだいけるのか?」


藤村 「頼む、俺の……」


吉川 「2万だろ。いいよ、いいから。その状況何とかできないのか? 悪魔をどうにか」


藤村 「無理だ。今は意識を保つだけで精一杯。くそぅ、あと1万あれば……」


吉川 「どういうこと? どういうシステムで戦ってるの?」


藤村 「もう少しなのに! 1万あればなぁ」


吉川 「……ないよ? 手持ちがないから」


藤村 「いくらならいける?」


吉川 「いくらならって。えっと、7000円くらいならあるけど」


藤村 「とりあえずそれでなんとかする! 頼む! 俺の意識があるうちに……」


吉川 「それで悪魔をなんかできるわけ?」


藤村 「あぁ、早く! こうしてる間にもあいつが!」


吉川 「いや、だって。わからないもん。お金でどうにかできるってこと?」


藤村 「俺の精神が! 精神がすごい大事だから」


吉川 「お前の精神はお金でどうにかなるってこと? まぁ、それはわからないでもないけども。お金があれば余裕もできるしな」


藤村 「頼む! 7000円。あとペイとかで支払う形でもいいけど?」


吉川 「すごい支払わせに来るじゃん。俺だけ払わなきゃいけないの?」


藤村 「悪魔が出ちゃったらそんなこと言ってられないぞ? 世界中がヤバいから」


吉川 「じゃあ世界中の人でシェアすればいいじゃん。みんな100円ずつとか」


藤村 「今そんなこと言ってられないだろ! お前しかいないんだ! 頼むよ、地球を救ってくれ!」


吉川 「救ってくれって、7000円でいけるのね?」


藤村 「とりあえずそれでなんとかする!」


吉川 「わかった。はい」


藤村 「イヒヒヒ! 残念だったな! お前がもう少し早く渡してればよかったのに。受け取った瞬間あいつの命運は尽きたぜ」


吉川 「マジかよ。じゃあ返してよ、7000円」


藤村 「それは藤村に言うんだな。俺様は悪魔だ! あいつの有利になるようなことをするわけないだろ」


吉川 「本当にその悪魔みたいなのが乗っ取ってるやつなの? そう言ってるだけじゃないの?」


藤村 「まったくお前もご苦労なこった。意味のないことに7000円も払いやがって。俺様の自由にさせてれば損はしなかったのにな」


吉川 「なんて言い草だ! 藤村が命をかけて戦ったというのに」


藤村 「ぅばぁ! な、なんだ? しつこいやつめ! 消え失せろ、雑魚が!」


吉川 「戦ってるのか、藤村! 頑張れ! 藤村!」


藤村 「……この俺が易易とやられてたまるか。ここじゃ不利だ、場所を変えるぜ。競艇場に行こう!」


吉川 「今どっちだよ!?」



暗転

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