花火
藤村 「花火好きなんだよね」
吉川 「まぁ、あんまり嫌いな人はいないだろう。花火大会が嫌いって人はいるかもしれないけど」
藤村 「なんか儚いじゃん。そこがいいんだよね」
吉川 「儚い? あんまりそういうイメージないな。どっちかというとドーンとダイナミックな感じが。あ、線香花火とか?」
藤村 「いや、ドーンの方も儚いだろ」
吉川 「儚いかぁ。一瞬で消えてしまうことを儚いって言えば儚いかもしれないけど。でも最近の花火大会は息つく暇もなく連発するじゃん」
藤村 「そこもいいんだよ。近くで見たことある? もう衝撃波が来るの」
吉川 「いや、そこまでの近さはないな。だって人多いじゃん。暑いし」
藤村 「たまたま近くのマンションから見たんだけど、もうすごいよ? ベランダから間近くらいの感覚」
吉川 「実際には間近じゃないだろうけど、デカいから臨場感はあるだろうな」
藤村 「衝撃波がドーンてくるからさ、それを全身で浴びるの。これが癖になる。花火浴」
吉川 「あんまり聞いたことない浴。でも気持ちいいような気がする。フェスも大音量を浴びるの気持ちいいからな」
藤村 「そうなんだよ! 花火浴を最大限に楽しむためには、やっぱり全裸が一番」
吉川 「ダメだろ。その楽しみ方は間違ってる」
藤村 「いや、ほら。見物会場で全裸とかじゃないよ? こっちはあくまでマンションのベランダだから」
吉川 「そこでもダメだよ」
藤村 「いや、これがダメじゃないの。なぜなら花火をやってる時はみんな花火の方を向くからマンションのベランダを見る人は存在しない。シュレディンガーの露出になるんだよ」
吉川 「そんな法則はねえし! 持ち出すなよ、シュレディンガーを」
藤村 「見られなければそこに露出が発生してるかどうかは確定してないから」
吉川 「やってる本人はわかってるだろ。シュレディンガーの猫だって猫の立場から考えるやつはいないんだよ!」
藤村 「ただやっぱりそうなってくると、見られるかも知れないドキドキ感を求める層にとっては物足りない」
吉川 「層を形成するな! お前一人のシュレディンガーの露出であれ!」
藤村 「むしろ見られる可能性がある方がよいっていう意見は結構多いんだぞ?」
吉川 「多いからなんだよ。全員変態だろ。意見を聞く必要性を感じない」
藤村 「せっかくの花火なんだから最大限に楽しむ努力はするべきだろ? 主催者側だってそれを願ってるはず」
吉川 「論点そこじゃない! もう花火関係なくなってるじゃん。露出の問題になってる」
藤村 「花火の会場だってあながちないとは言えないぞ? 人混みで浴衣が着崩れて露出気味になってる人もいる」
吉川 「なりたくてなってないだろ!」
藤村 「俺はそういう花火の楽しみ方も認めたい。多様性の時代だから」
吉川 「お前の認める多様性はこれまでの人類社会の歴史によって理由があって排除されてたやつなんだよ。地獄の釜から引っ張り出すなよ!」
藤村 「花火浴の気持ちよさを知ったらそんなこと言ってられないぞ?」
吉川 「知りたくない。世の中には知らない方が幸せってことも多いんだよ」
藤村 「あのな、俺ばっかり変な感じに言ってるけど、露出という言葉があるってことはもうマジョリティなんだよ。本当に極まった変態は名前がまだついてない先鋭的なものなんだから」
吉川 「確かに潜在的には多いかも知れないけど、花火大会の会場には紛れてないだろ」
藤村 「そんなことない。花火って履かないだろ?」
吉川 「履け!」
暗転
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