ネタバレ

藤村 「この間すごい面白い映画見たんだよね」


吉川 「ふぅん。どんなの?」


藤村 「まさかと思うんだけどラストで主人公の親友が死んじゃってさ。そこで言う言葉が感動的で」


吉川 「待ってくれよ。え? なに? ラストから言い始めた?」


藤村 「そこが感動するから」


吉川 「いや、違うだろ。それまでの話をして興味をもたせるものじゃない?」


藤村 「それまでの話は映画館で見てくれよ。なんで俺が2時間掛けて演じなきゃいけないの?」


吉川 「そんなことは望んでないよ。そうじゃなくて。いきなり最後のまさかを言い出すのおかしくない?」


藤村 「お前がどんなのって聞くからだろ」


吉川 「普通の聞き方だろ。どんなのって」


藤村 「俺が面白い映画を見たって言って、どんなのって言われたら、その面白い場面を言うしかないだろ。どんなのって聞かれて面白くない場面を話し始めたら頭がおかしいとは思わないか」


吉川 「いやいやいや。そうじゃないよ。面白いところだけを教えてくれって意味でどんなのって聞いてないよ。映画全体をどんなのって聞いたんだよ」


藤村 「俺は面白かったって話をしたんだよ? 先日映画を見たんだけどって話始めて『どんなの?』って聞かれたら映画全体の話をするよ」


吉川 「なに? これ、俺が悪いのか?」


藤村 「服買ったんだよ、格好いいやつ。って話して、どんなのって聞かれたら、こういうシルエットでこういう色合いでって格好いい部分を話すだろ?」


吉川 「そうだけど」


藤村 「なのにお前は『えっ!? 色から教えてくれたの?』みたいなことを言ってきてるわけだよ。言うだろ、色は」


吉川 「その場合はそうかも知れないけど、映画の場合は違くない? ちょっとこっちも興味があるってわかってるわけじゃん」


藤村 「だから見ればいいんじゃない? ラストの親友が死ぬところなんか、マジで泣けるから」


吉川 「だから! なんでそれを言うの?」


藤村 「それはお前。格好いい服の話だと、なんで着れるって最初に言っちゃうの? って言ってるようなもんだぞ」


吉川 「違うだろ。服は着れるよ。ちょっと服に例えるのやめて。なんか違うから、それは」


藤村 「だいたい映画ってストーリーがわかってても面白いものは面白いだろ。実際に同じ作品を何度も見に行く人だって多い。内容はもう知ってるのに」


吉川 「そうだけどさ。初見は自分で喰らいたいじゃん。その映画だって二度目に見る時はまた印象違うわけだろ」


藤村 「いや、二度目はもういいかな。親友死ぬの知っちゃってるし」


吉川 「その重要さをなんで言ったの!? お前のモチベーションを一気に奪い去るほどの物語の展開を!」


藤村 「だからそこが一番面白いから」


吉川 「一番面白いところは言わなくていいんだよ!」


藤村 「じゃあ何番目に面白いところを言うのが適切なんだよ!」


吉川 「順番じゃなくてさ。面白いところは言っちゃダメだろ、普通に考えて。面白そうなことだけを言ってくれよ」


藤村 「俺のことを予告編だと思ってる?」


吉川 「そうは思ってないけど。映画とか、マンガでも小説でもなんでもいいけど。面白さの本質の部分は教えちゃダメじゃん。そこにたどり着く筋道で興味を持たせてくれよ。自力でその面白さにたどり着くってことが楽しいんじゃん」


藤村 「そんなの全然自力じゃないだろ。登山のシェルパか。荷物も持って全部お膳立てをしてくれて。最後に登頂に立つところだけやらせてくれて『やったー!』じゃないんだよ! それを自力でやりたかったら他人になんて聞かずに勝手に辿り着けよ!」


吉川 「そうしてくれるのも友人の優しさだろ。俺が自力じゃないにせよ辿り着いて『やったー!』って気持ちになった時、後でお前と分かち合うのは楽しいじゃん。お膳立てといえばお膳立てかも知れないけど、俺は俺なりに自力で辿り着いたと思いたいんだよ。そこは尊重してくれよ」


藤村 「わかった」


吉川 「わかってくれたならいいよ」


藤村 「さぁ、吉川はこれからこの話にオチをつけられるのか!? 二転三転してるが果たしてどんなオチが? もう彼の頭の中には思い浮かんでいるのか、いないのか。誰もその先を予測できない。さぁ、どうだ吉川!?」


吉川 「そんな嫌なお膳立てをするなよ!」


藤村 「辿り着けなかったぁ!」


吉川 「うるせぇな!」



暗転

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