怪談

藤村 「で、怖いなぁ怖いなぁと思いながら進んでいったんだよ。夜の病院て明かりもごく一部しかついてなくて暗いの」


吉川 「うん」


藤村 「その時、ゾワって感じてさ。絶対に何かある! もう空気が今までとは違うわけ」


吉川 「うん」


藤村 「これはヤバイぞ、と思って振り向いたらさ……壁にベッチョリと!」


吉川 「うわっ! え、なに? 血?」


藤村 「ウンコが」


吉川 「ウンコっ!? え? ウンコ?」


藤村 「そう。ウンコが。壁に。道理でなんか臭いなって」


吉川 「待ってくれ。何の話? 怖い話じゃないの?」


藤村 「いや、怖いだろ。壁にウンコだよ? 病院の白い壁に」


吉川 「怖いけど。思ってた怖さとは違うっていうか。オバケの話じゃないの?」


藤村 「オバケはわからない。いたかもしれないけど、霊感ないから」


吉川 「あぁ、そういう話じゃないんだ。てっきり夜の病院でオバケが出てって話かと」


藤村 「いたかも知れないよ? でも見えないオバケより見えるウンコだろ」


吉川 「怪談でウンコ出てくることある?」


藤村 「あとこれは知り合いのタクシー運転手に聞いた話なんだけど」


吉川 「うん」


藤村 「遠くまでお客さん送ってさ、ほらタクシーって遠距離になるとそれだけ儲かるから、今日はラッキーだったなって思いながら帰ってきたんだって」


吉川 「うんうん」


藤村 「で夜中、山道っていうのかな。峠? 俺は運転しないからよくわからないけど、人気のないところを走ってたわけ」


吉川 「うん」


藤村 「もう淋しい場所でさ、対向車とかも全然合わないの。ま、早く帰ろうと思いながら運転してたんだけど、急にバンッ! って何か当たって」


吉川 「えぇっ!?」


藤村 「人の感じじゃないのはわかったんだって。衝撃から。なにか小動物かなぁ、ぶつかったのかなぁと思って、車停めて一旦外に出て見てみたんだよ」


吉川 「うん」


藤村 「フロント部分を恐る恐る確かめたら……」


吉川 「……」


藤村 「なにもぶつかった形跡がないわけ」


吉川 「えぇ? うん」


藤村 「おかしいな、と思ってさ。車に戻ろうと思ってドアハンドルを握ったら、ウンコが!」


吉川 「ウンコ! なんで?」


藤村 「なんでかな。最初からそうだったのかな」


吉川 「最初ってどこだよ。前に乗り込んだ時に気づくだろ。脅かし部分をウンコで来るなよ!」


藤村 「あれ、ウンコだ! って」


吉川 「いいんだよ、ウンコは。なんだよ、フロント部分についてるのかと思ったら緩急つけやがって」


藤村 「あとタイヤにベッチョリと血が!」


吉川 「遅いよ! もう無理だよ。ウンコいったあとに血で来られても衝撃がないんだよ。血先ちせんで来ないと」


藤村 「血先」


吉川 「血先便後でなきゃ怪談は成立しないんだよ。いや、便後はむしろいらないよ。便は無用!」


藤村 「でもおかしいなぁと思ってさ。後ろの方をライトで照らしてみたんだって」


吉川 「もう無理なんだって。ウンコがドアハンドルについてた時点で何の怪異も発生しないんだよ。だって手にウンコついちゃってるんだよ? テンションだだ下がりだろ。そのテンションでオバケは迎え入れられないよ」


藤村 「じゃあ別のさ。これは本当にあった話なんだけど、父親を殺されてしまった子がいてさ」


吉川 「えぇ?」


藤村 「それがひどい話なんだよ。その殺したやつはさ、投資の話を持ちかけてきて。絶対に大きく育ちますよって言って父親の資産を投資させたわけね」


吉川 「嫌な話だなぁ」


藤村 「で、実際にその投資は上手くいったんだって。すごいデカくなって、これから利確しようかなって時に持ちかけてきたやつが現れて、まず私が確かめますからって言って」


吉川 「うん」


藤村 「まぁ、実際にね。上手くいったわけだから、その時点では信頼もしてるし頼んだんだけど、そうしたらそのサルがカニの親に向かって育った柿をバーン!」


吉川 「さるかに合戦!」


藤村 「復讐を誓ったカニの子にウンコが『仲間になるぜ!』って」


吉川 「ウンコ! ウンコでてきたよ。怪談でもなんでもないのに。もうウンコの話じゃん」


藤村 「あ、怪談がよかった?」


吉川 「最初からその趣旨なんだよ。ウンコの話を要求したこと一度もないよ」


藤村 「じゃあ、怪談で。定番の話なんだけど、トイレの花子さんていう……」


吉川 「ウンコだよっ!」



暗転

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