授かり
藤村 「知ってる? あの人、できちゃった結婚したらしいよ」
吉川 「ちょっとそれ! 今どき言わないんだよ。できちゃった結婚て。よくないよ? 授かり婚っていうんだよ」
藤村 「授かり婚」
吉川 「どうしてもできちゃった結婚てネガティブな印象がついて回るじゃん。子供ができて結婚なんて二つもめでたいことなのに」
藤村 「そうなんだ。色々配慮の利いた時代だな」
吉川 「そうだよ。時代は移り変わってるんだから」
藤村 「そういえば笹咲さ、まただって。バレじゃった逮捕」
吉川 「そういう言い方はしないだろ」
藤村 「あー。配慮が」
吉川 「配慮じゃないよ。むしろそこに配慮はいらないだろ。ネガティブなことなんだから。なんでちょっとファニーなフレーズにしてるんだよ。何がバレて逮捕されてるんだよ」
藤村 「吸っちゃった大麻」
吉川 「それはもうアウトだよ! 大アウトだよ。吸っちゃったじゃないよ。吸っちゃうなよ。なんでちょっと茶目っ気出してるんだよ」
藤村 「こういうの配慮してなんていうんだ? 授かり罪?」
吉川 「大麻取締法違反でいいだろ。誰も授けてないんだよ。どっかから入手したんだろ」
藤村 「ほら、入手手段は不明らしいから」
吉川 「だからって授かってないんだよ! 言わないだけでどこからか入手してるんだから。それがもう悪いことなんだから」
藤村 「もう配慮の塩梅がわからなくてさ」
吉川 「わかるだろ! そもそも結婚と逮捕を同列に並べるなよ。住んでるレイヤーが違うんだよ」
藤村 「でもまだ逮捕されただけだからね。このあとの決まっちゃった裁判でどうなるかわからないから」
吉川 「わかってるだろ! 決まっちゃってるんだよ! なんだよ、決まっちゃった裁判て」
藤村 「日本の裁判における有罪率って99.8%らしいから」
吉川 「決まっちゃってるなぁ! それはもう決まっちゃった裁判だわ」
藤村 「でも認めちゃった執行猶予になるかもしれないから」
吉川 「認めたら。一応反省の色があるとして懲役まではいかない可能性も。だからそういう言い方やめろよ。認めちゃった執行猶予って語呂も全然良くない。わざわざ新語として作る価値もない」
藤村 「あれ? 笹咲ってそもそも犯しちゃった前科がなかったっけ?」
吉川 「割とナチュラルな言葉で滑り込ませたな。犯しちゃった前科あるの? 俺はそんなに親しくないから知らないけど」
藤村 「ひょっとして今が執行猶予中だとすると、破っちゃった懲役になるのかな」
吉川 「もうさ、その言い方やめない? 罪は罪としてシリアスなものじゃん。なんかふざけ半分に言うの良くないよ。マジで」
藤村 「別にふざけてないけど? じゃあなんか授かり婚みたいな。捕まり収監て言えばいいの?」
吉川 「言わなくていい! みたいなって両方を並べるなよ。全然クリーンさが違うんだよ」
藤村 「まぁ、本当にしょうもないやつだけどさ。何度縁を切ろうかと思ったことか。でも周りが見捨てたらそれこそあいつ何しでかすかわからないからな」
吉川 「一応大麻とかは被害者がいるわけじゃないけど。でも罪は罪だから。そこはちゃんと償わないと」
藤村 「いや? あいつちゃんと被害者のいる罪も犯してるよ? なんだっけ、当たっちゃった詐欺」
吉川 「当選しましたって騙して金を受け取るやつか。もう最悪じゃん。それは完全にアウトだわ。その金で大麻とか買ってたんだ」
藤村 「そうそう。預り金」
吉川 「授かり婚みたいに言うなよ!」
暗転
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