ぺてんし

どこから

吉川　「結局それで言い合いになってさ。浮気ってどこから浮気なのか、ってのは人によって違うからさ」

藤村　「そうか。人によって違うものか」

吉川　「そうだよ。単純にさ、心と体で大きく分けられるじゃん？　気持ちが動いてたら浮気とか、手をつなぐのからもう浮気だとかさ」

藤村　「そうなの？」

吉川　「そうだよ。俺は二人っきりで食事に行くってのは浮気じゃないと思うんだよ。別に社会人ならありうることじゃない？　出先でランチ食べるのだって一緒の食事だよ。ただその時に、ちょっといいなとか思ったら浮気かも知れないけど。だからどっちかと言うと心の問題でさ」

藤村　「う～ん。悪いけど、全然その話入ってこないわ」

吉川　「入ってこない！？　そんな難しい話した？」

藤村　「というか興味がなさすぎて。浮気とかどうでも良くない？」

吉川　「まぁ、こうやってお前と話してもしょうがない話ではあるけど」

藤村　「俺はさ、むしろどこからが正気なのかの方が気になるよ」

吉川　「正気っ！？　どこから？　どこって、正気の時が正気だろ」

藤村　「なんだよそれ。じゃあ、浮気の時が浮気でいいじゃねえか。なんで人の話題だけ雑に処理するんだよ」

吉川　「いや、雑っていうか。正気はわかるだろ」

藤村　「例えば自己をきちんと客観的に認識していて、自己紹介ができるとなると、それは正気かな？」

吉川　「それは正気だろ。大丈夫だよ」

藤村　「変なおじさんはそうなんだけど」

吉川　「変なおじさん！　志村けんの？　あれは正気じゃないよ！」

藤村　「でもちゃんと自己認識はしっかりとしてるし」

吉川　「しっかりじゃないだろ！　いや、しっかりなのか？　にしても、正気じゃない人だろ」

藤村　「じゃあ、『私は変なおじさんではありません！　正気のおじさんです！』って言ってくるおじさんがいたら、それは正気かな？」

吉川　「もっと正気じゃない可能性が高いよ！　変なおじさんより、ちょっと難易度の高いフィールドで遭遇する敵だよ！」

藤村　「だよな。じゃあ、どこから正気なのかも結構難しくない？　果たして心の問題なのか、身体の問題なのか」

吉川　「浮気の話に寄せてきたな。正気は心の問題だろ」

藤村　「でもピンクのステテコで変な踊りを踊りながら来たら？」

吉川　「それも心の問題だろ！　というか、心の問題ってセンシティブな話題を急にぶっこむなよ」

藤村　「お前だって浮気は心の問題って」

吉川　「心の問題の載ってる問題集が違いすぎるんだよ！　浮気の心の問題は小学生のドリルのやつだから！」

藤村　「お前は、そんな初級編の話で恋人と諍いを起こしてるの？」

吉川　「それはそれで結構な問題なんだよ！　難しけりゃいいってもんじゃないから。基礎は大事！」

藤村　「じゃあどこからが病気なのかってのは？」

吉川　「それは素人が手を出しちゃいけない領域なんだよ！　専門の医師に任せろよ！」

藤村　「心の問題なのか、体の問題なのか」

吉川　「どっちでも問題があれば病気だよ！」

藤村　「じゃあ浮気もどっちも問題があれば浮気なんじゃない？」

吉川　「煙に巻くようにしてすべて解決したな」

藤村　「あと、どこからが勇気なのかって問題もあって。やっぱりこれも心と体で意見が分かれると思うんだよ」

吉川　「どうでもよくない？　勇気なのか勇気じゃないのかのジャッジをしなきゃいけない立場ってどこ？」

藤村　「ユーチューバーが無茶をするのは勇気なのか」

吉川　「勇気じゃないよ！　ただ人目を集めたくて理性のタガが外れてるだけだよ！」

藤村　「そうか。ということは、人気か。人気ってのもどこからが人気でどこからが人気じゃないのか」

吉川　「それをきちんと追求すると敵に回す人が多すぎる！」

暗転