助っ人

吉川 「こう暑くちゃ何もやる気にならないな」


マン 「そんなことはないぞ!」


吉川 「え、誰?」


マン 「フハハハ。我こそは、困ってる人々に手を差し伸べる使者。天より舞い降りし助っ人。エアコンの室外機の日除けマンだ!」


吉川 「え。待って。どれが名前? 一気にいっぱい言われすぎてわからない」


マン「困ってる人々に手を差し伸べる使者」


吉川 「使者さんね」


マン 「いや、違う。それは名乗りの部分。肩書き」


吉川 「どれが名前?」


マン 「天より舞い降りし助っ人」


吉川 「助っ人さんね」


マン 「それも肩書き」


吉川 「肩書きばっかりだな」


マン 「ヒーローってそういうものでしょ。名前だけ言っても不審者でしょ」


吉川 「いや、色々言ってるけど、結構あなたも不審者よりだと思ってますよ、現状」


マン 「エアコンの室外機の日除けマン!」


吉川 「エアコンの?」


マン 「エアコンの室外機の日除けマンです」


吉川 「エアコンの室外機の日除けマン。それが名前?」


マン 「その通り!」


吉川 「弱いだろ。助けるパワーに期待ができない。せめてエアコンマンだろ」


マン 「ふふふ。そのエアコンマンは果たして室外機無しで活躍できるのかな?」


吉川 「すげぇ自慢気に言ってきたけど、あなた室外機マンでもないでしょ?」


マン 「その室外機は今の日差しの中では存分に力を発揮できないのだ」


吉川 「そうなの? うちのは発揮してるけど?」


マン 「私がいればもっと効率よく冷やすことができるのだ!」


吉川 「そこまでのことじゃなくない? あればいいかもってくらいで」


マン 「熱中症をなめるな! 命の危険すらあるんだぞ!」


吉川 「いや、熱中症はなめてないよ。だからちゃんとエアコンも使ってるよ」


マン 「全然効率悪く。もう電気代をドブに垂れ流してるような使い方。情弱の使い方」


吉川 「嫌な言い方するなぁ。使わないよりマシだろ」


マン 「私がいなければ熱中症で大変なことになる確率もやや上がるぞ!」


吉川 「やや? ややを拠り所にして助っ人活動してるの?」


マン 「たとえたった一人だとしても救われる命があるのならばやらない理由にはならない!」


吉川 「まぁ、そうかも知れないけど。うちはいいかな。それ風の強い日はどうなるの?」


マン 「うるせー、殺すぞ?」


吉川 「急な殺意! 救われる命とか言ってたそばから殺すって言葉出る?」


マン 「想像力を働かせればわかるだろ」


吉川 「想像力を働かせて考えた上で、風邪の強い日は使えないし、なにかエアコンの室外機の日除けマンならではの特別なやり方があるのでは? と思ったから聞いたんだけど」


マン 「しまえばいいだろ!」


吉川 「あ、ないんだ。それはもう活躍とかじゃなくて。諦めるんだ」


マン 「倒れることが恥なのではない。立ち上がらないことが恥なのだ! 何度でも! しまうことは恥ではないし、何度でも出してつければいいだろ」


吉川 「ヒーローっぽいフレーズで誤魔化してきたけど、その面倒くささが嫌だって話じゃないの?」


マン 「じゃ、もう死ね! 人生なんて面倒なことだらけなんだよ!」


吉川 「殺意がインスタントだな。全然ヒーローっぽい感じがしない。冬場はどうなの?」


マン 「この暑いのに冬のことなんて考えるやついるか!」


吉川 「いるだろ。特に場所を取るものを買う時は一番考えなきゃダメだろ」


マン 「今ここで室外機の日除けがなければ冬まで生きられる保証はないんだぞ!」


吉川 「そんなキリギリスみたいなスタンスでやってるの? 理屈がガバガバ過ぎない?」


マン 「あぁ、しまった! こんなことをしてる間に時間が」


吉川 「活動限界時間が限られてるのか。どのくらい?」


マン 「30分だ」


吉川 「短いなぁ。対して役にも立たなそうなマンが」


マン 「これから30分。オペレーターを増員してお待ちしております。30分を過ぎると特別価格にはなりませんのでご注意を!」


吉川 「ショッピング枠だったのか」



暗転

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