老師

吉川 「老師! 本当の強さとはどういうものなのでしょうか」


老師 「ふぉっふぉっふぉ、本当の強さとは、戦わぬことじゃよ」


吉川 「戦わないこと。なるほど。強さを突き詰めれば争いは無用ということですか」


老師 「うむ」


吉川 「では本当の歌の上手さとは何でしょうか?」


老師 「ふぉっふぉっふぉ、本当の歌の上手さとは、歌わぬことじゃよ」


吉川 「なるほどー! 上手そうな雰囲気だけ出して全然歌わないことで、華麗にやり過ごすんですね」


老師 「ふぉっふぉっふぉ、世の中の歌の上手い人はだいたいそれじゃ」


吉川 「そうだったんですね! では老師、本当の優しさとはなんでしょう?」


老師 「ふぉっふぉっふぉ、本当の優しさとは、関わらぬことじゃ」


吉川 「なっるほど! 人間関係のいざこざって根本を言えば関わり合いになることから始まりますからね。道端で困ってる人がいても無視。それこそが一番優しいってことですね」


老師 「ふぉっふぉっふぉ、困ってる人の動画を撮ってSNSにアップしないことこそ一番の優しさじゃ」


吉川 「確かに仰るとおり! では老師、本当の美味しさとはなんでしょう?」


老師 「ふぉっふぉっふぉ、本当の美味しさとは、コンソメパンチのことじゃ」


吉川 「なるほど。確かに美味いもんなぁ、コンソメパンチ。一番美味い。米にかけても美味いんじゃないかな。説得力あるなぁ」


老師 「ふぉっふぉっふぉ、ハッピーターンの粉がその次」


吉川 「もう美味しい界の龍と虎じゃないですか。考えれば考えるほどないか、それ以上は。では老師、本当のエロとはなんでしょうか?」


老師 「ふぉっふぉっふぉ、むっちりお腹じゃ」


吉川 「むっちりお腹。いや、自分はシュッてしてる方が好みなんですが」


老師 「まだまだ若いのぉ。誰しも通る道じゃ。己の力を見誤り、高望みし、そして自らの力の無さを思い知るのじゃ。人生とは数奇なもの、そんなモデルみたいのとはどの道縁など無い。そんな時にちょうどいいむっちりお腹に救われるのじゃ」


吉川 「深い! さすが老師。私が至りませんでした」


老師 「しかし過ぎたるは及ばざるが如しという言葉もある。むっちりで済んでいればいいが、過剰に求めるあまりにエロ動画サイトで『chubby』とか検索し始めると海外のスケールの大きさに痛い目に遭わされる。くれぐれもちょうどいいむっちり感を心掛けるのじゃ」


吉川 「ご忠告、肝に銘じておきます。では老師、本当に頭が良いとはどういうことでしょうか?」


老師 「ふぉっふぉっふぉ、本当の頭の良さとは論破しないことじゃ」


吉川 「なるほど。SNSなんかでレスバして頭が良いと思い込んでるのはバカもバカの大バカということですね。バカは相対評価でしか自分の能力を見極められないから、自分よりバカを見つけて論破することで賢いことを確認したがるけど、どの道そんなことをしてる時点で大差ないバカだと」


老師 「ふぉっふぉっふぉ。論理的な思考などというのは、答えるのある単一の問題で使うべきものなのに、社会問題などの答えのない複雑な問題に対してロジカルシンキングなどと称して言った気になってるのは愚か者のすることじゃ」


吉川 「老師、それ論破しようとしてません?」


老師 「……あん?」


吉川 「す、すみません。老師、口が過ぎました」


老師 「いつでもやってやんぞ?」


吉川 「本当の強さとは戦わないことって言ってたのに」


老師 「退かないこと、媚びないこと、省みないことが大事なんじゃ」


吉川 「サウザーの。南斗鳳凰拳の聖帝サウザーのやつ」


老師 「あと、負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じ抜くことも大事なんじゃ」


吉川 「それ別に老師の言葉じゃないでしょ。軽々しく引っ張ってこないでくださいよ。じゃあ老師! 老師! 本当の寛容さとはなんでしょう?」


老師 「ふぉっふぉっふぉ。本当の寛容さとは、死ぬまで許さぬことじゃ」


吉川 「逆張りジジイ!」



暗転

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