ぺてんし

食い合わせ

藤村　「暑いからさ、精をつけようと鰻を食べたのよ」

吉川　「いいねぇ。最近なんか養殖とかが上手くいって絶滅の危機はなくなったって話聞いたな」

藤村　「そうなの？」

吉川　「そう。それまでこのまま食べ続けると絶滅するから良くないみたいに言われてたんだけど」

藤村　「良くないって言われてもさ。正直俺の懐事情だと、鰻なんてそんな頻繁に食べられないからな」

吉川　「そりゃね。養殖でも輸入でも高いし。まぁちょっと勇気のいる値段ではあるからな」

藤村　「やっぱりね、鰻美味いね。もう俺はあいつがウマギに改名しても許す」

吉川　「しないと思うけど。チャンスさえあればウマギになりたいなって思ってないだろ」

藤村　「そのくらい美味いって話。で、暑くて汗かくからさあれで塩分を取ってるの。梅タブレット」

吉川　「あぁ、梅干しの。いいんじゃない？　梅ならクエン酸も取れるのかな。疲労回復効果があると言われてる」

藤村　「好きで結構食べてるの。ただ鰻と梅干って食い合わせが悪いって聞いてさ」

吉川　「はいはい！　聞いたことあるわ。食い合わせね。一緒に食べちゃいけないんだっけ」

藤村　「よくないと言われてる。昔から。昔から伝わるそういうのってさ、案外バカに出来ないじゃない？　なんか現代になって科学的に分析したら確かに正しかったみたいな」

吉川　「あるね。鰻と梅干かぁ。さすがに一緒に食べようとは思わないけど、暑い夏に摂るラインナップとしてはありえなくはないよ」

藤村　「だろ？　で怖くなって調べたんだよ。鰻と梅干を一緒に食べたせいでなんか内臓の数値がとんでもないことになって即死するとかあったら困るから」

吉川　「即死はしないと思う。即死するレベルの話は食い合わせなんていう牧歌的な伝承じゃなく法で禁止されると思うよ」

藤村　「ネットで調べたところ、鰻と梅干って全然一緒に食べてもいいんだって」

吉川　「なんじゃそりゃ」

藤村　「むしろ梅干の酸がいい感じになるから推奨するまである」

吉川　「そんなもんだろうな。古くからの伝承でも現代から見たらズレてるってこともあるわけだ」

藤村　「だいたい間違ってるらしい。例えば天ぷらとスイカも食い合わせが悪いって言われてる」

吉川　「天ぷらとスイカ。一緒に食べるってことはないだろうけど。あんまりピンとこないな」

藤村　「だろ、これもないんだよ。全然一緒に食べていい。今のところ天ぷらとスイカを一緒に食べた人間はまだ死亡例はないらしい」

吉川　「あるだろ！　それはあるよ。なんでその食い合わせで食べると不死になるんだよ。別の効果が出てるじゃねえか」

藤村　「あとヤギと冷たい飲み物」

吉川　「ヤギ？　ヤギってあのヤギ？　メェ～のヤギ？」

藤村　「いや、メルメルメェエエエ～の方のヤギ」

吉川　「一緒じゃねえか。真似のクオリティだけだろ。指してるもの一緒だよ」

藤村　「それは子ヤギね。大人のヤギはバァゥウ。ブルッフフフフの方」

吉川　「真似の上手さ関係ないだろ。そのヤギだってわかったらもういい話なんだよ。ヤギなんて食べる？」

藤村　「これは沖縄の方で言われてるらしい」

吉川　「あー、沖縄だと食べるのか」

藤村　「ヤギを食べてあんまり冷たいものを飲むと、脂が低音で固まるから良くないって言われてるけど、そんな同時に食べるかって話でさ」

吉川　「一応理屈はあるんだな。ヤギ食う機会ないから注意しようとも思わないけど」

藤村　「あと鶏肉と毒キノコ」

吉川　「ん？　毒？」

藤村　「そう。これはダメらしい。いくら鶏肉から良い出汁が出ても良くない」

吉川　「それはそうだな。それはもう食い合わせじゃなくて毒キノコの単独犯だろ。コンビになって持ち味が生かされるってタイプじゃなくて」

藤村　「あと毒牛肉と毒白菜」

吉川　「何その食材！　どこから調達したの」

藤村　「一見すると毒を打ち消し合いそうだけど、相乗効果でヤバいらしい」

吉川　「思ったとおりだよ。もっと一般家庭の食卓にあがるようなやつにしろよ」

藤村　「フォークと皿」

吉川　「食材じゃない。頓智をきかせろって言ったわけじゃないんだよ！」

藤村　「これは硬いから消化できないらしい」

吉川　「知ってる。新しい知見が何も無い。食べないほうがいいな、とういうよりも食べようと思ったことがない」

藤村　「あとドブと格安スマホ」

吉川　「なにが！？　何の審査基準をくぐり抜けてその二つがエントリーしたの？　どっちも食べようと思う人いないよ。ドブはもう絶対に嫌だし、スマホは格安じゃなくてもないだろ」

藤村　「まぁ、こういうのを知っておくのも生きていく上での糧になるんだよ。俺と豆知識みたいな」

吉川　「食い合わせの悪い糧！」

暗転