メダル

藤村 「吉川選手、ついに念願の金メダル、おめでとうございます!」


吉川 「はい。ありがとうございます」


藤村 「今のお気持ちをお聞かせ願えますか?」


吉川 「ええ。戦ってきた相手の選手たちも強かったので、今はホッとしています」


藤村 「弱いな」


吉川 「え」


藤村 「弱い。金メダルですよ? 金メダルの喜びの声がそれですか?」


吉川 「いや、まだあの、実感がないので」


藤村 「じゃあ実感してもう一度喜びの声をお願いします」


吉川 「実感して!? そんなインスタントできるものじゃないでしょ、実感は」


藤村 「今のですと、せいぜい銅メダルの喜びの声ってことになりますよ?」


吉川 「いや、金メダルなんですけど」


藤村 「ですよね? だったら金メダルらしい最高の喜びの声をお願いしますよ」


吉川 「その、なんていうか。こういうのも苦手なもので」


藤村 「吉川選手、これが喜びンピックだったら予選敗退ですよ?」


吉川 「喜びンピック? なんですかそれ」


藤村 「金メダルを獲ったならそれにふさわしい喜びがあるじゃないですか」


吉川 「心の中ではすごく喜んでるんですけど、表情に出すのが下手で」


藤村 「吉川選手、これから日本は少子化がどんどん進んでいきます」


吉川 「なんですか、急に」


藤村 「競技人口もどんどん減っていくわけです。その未来の競技を支える子どもたちが吉川選手の喜ぶ姿を見たらどう思いますか? 『なぁんだ、金メダルをとってもあの程度しか嬉しくないのか』と思われたら誰もやらなくなりますよ?」


吉川 「いや、喜んではいるんですって!」


藤村 「でしたらそれを出してください。思いっきり。子どもたちが憧れて羨ましがるくらいの喜びを!」


吉川 「やりました! 金メダル嬉しいです!」


藤村 「全然ダメです。それじゃいいとこ銀メダルだ」


吉川 「なんですか、それあなたが決める権限ないでしょ」


藤村 「本当に金メダルを獲ってたなら、やりましたなんて言ってる余裕ないですよ。『ヤッピー!』ですよ、普通は」


吉川 「ヤッピー? いや、それは人生で一度も言ったことないな」


藤村 「やりました、なんてただの報告でしょ。心の内側から溢れ出たらヤッピーになるはずです」


吉川 「なるはずなの? 心にヤッピーを飼ってない人だって結構いると思うけど?」


藤村 「ヤッピーは最上級ですから。やりました。やったー。ヤッピーの活用は中学で習ったはずです」


吉川 「習ってないよ! 理屈が全然わからないんだけど、ヤッピーでいいですか。ヤッピー!」


藤村 「いいですね。喜びンピック金メダルも見えてきましたよ」


吉川 「見えてきてます? ヤッピー! 金メダルヤッピー!」


藤村 「じゃあこの2024の形になってるサングラスも掛けて」


吉川 「これも!? ヤッピー!」


藤村 「いいですね。あと『本日の主役』の襷と、ついでにカラフルなアフロのウィッグも被りましょう。もうこれでパリピ感がマックスです」


吉川 「金メダル、ヤッピー!」


藤村 「おお! かなりの金メダル! これは喜びンピックでも間違いない!」


吉川 「もういいですか?」


藤村 「あ、素に戻らないで! そのまま。維持したままインタビューを」


吉川 「維持? ヤッピー……。あの他の選手たちも強くて」


藤村 「あぁ。銀メダルに落ちてきた。もっと余裕感を! 世界一の金メダルである余裕とおごりを!」


吉川 「他の選手たちも、たいしたことなくて余裕でした。ヤッピー!」


藤村 「いいですねー! 最高! まさに金メダルに相応しい!」


吉川 「ヤッピー! 金メダル、うれピーです!」


藤村 「……あ、すみません。吉川選手。それはドーピングで違反なんです。金メダルは剥奪になります」


吉川 「え、ドーピング!? なに?」


藤村 「うれピーはまずいんです。うれピーもマンモスうれピーもドーピングになっちゃうんですよ」


吉川 「なんでだよ! 知らないよ。うれピーに罪はないだろ!」


藤村 「うれピーに罪はないんですが、すみません。喜びンピックの金メダル、残念ながら剥奪になります」


吉川 「そのメダルは別にいいよ!」



暗転

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