スケール

藤村 「聞いてよ! この間彼女と待ち合わせしてたのね」


吉川 「うん」


藤村 「そしたら向こうから彼女がズシーン、ズシーンってやってきてさ」


吉川 「彼女巨人なの?」


藤村 「なにが? 野球? 好きな球団は知らん」


吉川 「擬音のスケール感がおかしくない? ズシーン、ズシーンって来る?」


藤村 「それはただの雰囲気だから。トコトコって言っても別にそんな足音はしないだろ? タラちゃんじゃないんだから」


吉川 「まぁ、そうか」


藤村 「で、眼の前に来たからさ『お~い! なんで遅れたの~?』って聞いたんだよ」


吉川 「その声量で問いかける? 眼の前の人に」


藤村 「そしたら彼女はさ『なぁにぃ~?』って聞き返してきて」


吉川 「巨人だろ。その低音で間延びした喋り方は巨人のそれだよ。彼女の身長いくつ?」


藤村 「どうだろ160cmないって言ってたけど」


吉川 「普通のサイズ。距離感おかしくない? お互いに」


藤村 「それで色々言いたいことはあったんだけど、彼女が片手で俺自身をグッと握って持ち上げたからさ」


吉川 「スケール感おかしくないっ!? 片手で? グって握るの? 巨人じゃん。完全に巨人と人の動きじゃん」


藤村 「あ、俺自身って隠語の意味でね」


吉川 「なんでだよ! そんな急に隠語を使うなよ! だいたいなんで彼女は急にそれをグッて握るんだよ」


藤村 「それはわからないよ。俺だってビックリしたんだから」


吉川 「痴女じゃん」


藤村 「でまぁ、ここで言い合ってもしょうがないからってどこか涼しいお店入ろうと歩いたわけよ」


吉川 「普通に?」


藤村 「なにが?」


吉川 「いや、今までの感覚だと手のひらに乗せてとか、肩にチョイっと乗っけて歩いてる感じが」


藤村 「俺よりも背低いんだよ?」


吉川 「そうだよな。なんか巨人感があったから」


藤村 「でもどこの店も混んでてさ。暑いから。みんな涼しいところで休みたいんだよ」


吉川 「まじでそう。俺もこの間同じ目にあった。どこも混んでるし、なんなら観光客とかでいっぱいなのよ」


藤村 「しょうがないからコンビニで飲み物買ってさ、その辺にズッズーンって座ったわけよ」


吉川 「ズッズーンって? すごい太ってるの?」


藤村 「失礼なこと言うな? 俺の彼女だぞ? 別に太ってないし例えそうだとしてもお前にそんなこと言われる筋合いはないよ」


吉川 「ごめん。だってズッズーンだったから。ズーンならともかくズッズーンは巨大すぎない? 砂煙がたってない?」


藤村 「ただのオノマトペだろ? え、なに? その生活に関する擬音て正確な音じゃないとダメなの?」


吉川 「そんなことないけど、ズッズーンをそこで採用する?」


藤村 「どう表現したら適切か、なんて話してる流れ何だからそこまで考えないだろ。じゃあお前はジャブジャブとパシャパシャどっちがこの場合は適切でどちらかしか使うべきではないとか言うわけ? ノリだろ、そんなの。正解とかないんだよ」


吉川 「そうか。お前がズッズーンだと思ったならそうなのかもな。主観に過ぎないもんな」


藤村 「でも彼女熱くていらついてたのか、飲み終わったペットボトルをグワガシャゴキバキって潰してさ」


吉川 「パワーが! パワーがすごすぎる。岩鬼の打撃音みたいな音でペットボトル潰したの?」


藤村 「で、勝手にズンズン進んでっちゃってさ」


吉川 「もうズンズンがすごい重量感のあるワードに聞こえる。聞き馴染んだ言葉のはずなのに」


藤村 「そうしたら急に彼女がかがみ込んじゃってさ」


吉川 「え、まずいじゃん。熱中症とか?」


藤村 「そう、なんかめちゃくちゃ熱くなってるの」


吉川 「うわー。大丈夫だったの、それ?」


藤村 「それで聞いたらさ、ウィーンウィーンって首を振るから」


吉川 「ウンンじゃなくて? ウィーン?」


藤村 「でミィーガシャ、ミィーガシャン、ドルンツッツッツッツ、ドドドドド、ゴワァァァァ! って背中からジェット出して家に帰っていたんだよね」


吉川 「何の話? 彼女って」


藤村 「ロボだが?」


吉川 「ロボ。愛があるならそれもいいね」



暗転

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