不良

藤村 「不良がちょっと良いことをしたらすごく評価される傾向ってあるじゃない?」


吉川 「あるね。まぁ、不良に限らず、見た目が怖い人とかもね」


藤村 「あれになりたいんだ」


吉川 「あれになりたい。なろうとしてなれるものじゃないんじゃないの?」


藤村 「あとあと見直されて評価の上がる不良になりたい」


吉川 「不良に憧れる動機が不純。もっと人を見下したいとか、不満をぶつけたいとか、頭の悪い理由で不良になれよ」


藤村 「今まで真面目に生きてきたのに別にいいことなんてなかった。だから一回不良を経由することによってこれからの人生を飛躍させたい」


吉川 「不良はそんな乗り継ぎの駅みたいなものじゃないんだよ。絶対にそのまま真面目に生きたほうがいいと思うけど?」


藤村 「もう真面目に人生を消費されるのはうんざりなんだ!」


吉川 「そんな風に思わせてしまう世の中の方が間違ってると思うよ。不良になんかなっちゃダメだ」


藤村 「いいか、世の中ってのは不良にいい社会に出来てるんだよ。見てみろ、SNSで成功を謳ってる人はみんななんかちょっと不良っぽいじゃないか」


吉川 「それは詐欺師だからよ。ただの悪い詐欺の人だよ。過去に捕まったか、未来に捕まる人だよ」


藤村 「俺は不良になる! 大量無差別殺人でもして、そのあとに募金とかして一気にいい人として評価される!」


吉川 「罪がデカい! 根が真面目だからか。そんなウィキペディアに長文で詳細が書かれる殺人鬼みたいなことをする不良はいないんだよ。募金くらいで取り返せる罪じゃない」


藤村 「じゃあ、無差別じゃないやつで」


吉川 「無差別じゃなければ大量殺人でも軽めでいけるかって考えてるの? 真面目というか根本の倫理観が危ういやつだな」


藤村 「不良ってその程度でいいの? 一人でも大丈夫?」


吉川 「全然大丈夫というかお釣りが来るよ! 殺人はまずい。殺人をしたやつを『あいつは不良だな』って思えないもん」


藤村 「じゃあビックリマンシールすぐ貼っちゃう」


吉川 「小さい! 罪のスケールが急激に小さい。ビックリマンシールは貼る用じゃないからな、あれを貼られたら結構ショックだけど。とはいえシールだ。悪いと言うほどの悪ではない」


藤村 「バナナの皮を置いておく」


吉川 「悪いよ? 悪いか悪くないかといえば悪い。ゴミのポイ捨てだし。ただトムとジェリーみたいな結果を求めてもそれは叶わないよ? バナナの皮で転ぶっていうムーブメントは昭和とともに消え去ったんだよ」


藤村 「マスクを付けない」


吉川 「言いづらい! 良いか悪いか言いづらい! またコロナ流行ってきてるからマスクは是非つけて欲しい。しかしこの暑さでつけたくない理由もわかる。つけてない人が悪人だと断じるのも気が引ける」


藤村 「ビデオを巻き戻さずに返却する」


吉川 「ない! そんなものはもうない! 多分何を言ってるかわからない人も多い」


藤村 「マナー講師が教えてくれたマナーを守らない」


吉川 「それでいい! 別にそれはそれでいい! 不良じゃない。守りたい人は勝手に守ればいいけど、それを押し付けるようなやつはむしろ不良!」


藤村 「SNSで真実を追求する」


吉川 「何も言いたくない! もうそういう人をどうこうって言いたくない。変に関わるとこっちもややこしい事になる」


藤村 「不良難しすぎる」


吉川 「絶望的に不良の素質がないな」


藤村 「もっと軽い炎上みたいなところから始めたい」


吉川 「まぁ確かに軽い炎上くらいなら現代の不良というサイズに合ってるかも知れないが、炎上って当事者が軽くとか重くとかコントロールできるものじゃないぞ」


藤村 「ちょっと大げさに良くないことを自慢したらみんな食いつくんじゃないの? で、きちんと謝罪して心を改めて再出発することで評価される」


吉川 「そんなに上手く釣れるかなぁ」


藤村 「『いとこが明日誕生日で20歳。半日早いけどハイボールで乾杯!』とか書いてみよう」


吉川 「う~ん、半日かぁ。微妙」


藤村 「絶妙に悪いっちゃ悪いが責めるまでもない悪さだろ?」


吉川 「どう? SNSの反応はあった?」


藤村 「いや、思ったより不漁」



暗転

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