封印

吉川 「やめるんだ! その封印を解いたらどんなことになるのかわかってるのか?」


藤村 「わかってるさ。俺の願いが叶う。なによりも強く、誰に媚びることもなく、すがることもなく、すべてを支配しうるだけの力が手に入る!」


吉川 「お前はそんな人間じゃなかったはずだ」


藤村 「そうさ、今までの俺は弱い人間だった。その弱さが俺からすべてを奪っていったんだ!」


吉川 「藤村! 正気を取り戻せ!」


藤村 「正気じゃないだと? なら俺を狂わせたのは誰だ!? この世界じゃないか! 狂っているのは世界の方だ。正しいものが虐げられ、ずるいやつが蔓延るこの狂った世界の方だ!」


吉川 「やめろー! 封印を解くな!」


藤村 「ふっふっふ、これですべてが……。すべ……。あれ。全然開かない」


吉川 「え、開かないの?」


藤村 「堅った! なにこれ? え、おかしくない?」


吉川 「神器は全部揃ってるんだよね?」


藤村 「全部揃ってる。あれ? なんで?」


吉川 「偽物とか混じってるんじゃないの?」


藤村 「偽物かどうかはお前が一番良くわかってるだろ」


吉川 「いや、俺だって奪い合いになってからしか知らないから。その前にすでにすり替わってたとか」


藤村 「そりゃないと思うけど? だって偽物をあそこまで警備する?」


吉川 「だよなぁ。偽物だったら俺にも一言あるべきだもん。じゃあ本物か」


藤村 「でしょ。偽物だったら俺達があれだけやり合ったの全然意味ないことになっちゃうよ」


吉川 「ちょっと見せて」


藤村 「ね? 堅いでしょ?」


吉川 「堅った。動く気配ない。これ、ここが蓋でしょ?」


藤村 「普通そうだよね。蓋じゃないってことある?」


吉川 「あー! ほら、セロハンついてる」


藤村 「まじかよ。ホントだ。セロハンが付いてるんだったらあの御札意味ないだろ。なんだったんだよ、御札は。セロハンのみでいいだろ」


吉川 「セロハンのみだとほら、ありがたみがないでしょ。一応セロハンできちんと密封して、その上で御札じゃないと。クッキーとかもそうだよ。セロハンだけど、一応シールついてるみたいな」


藤村 「クッキーもそうだもんな。封印もそうか」


吉川 「そうだよ」


藤村 「あの、このセロハンなんか古くて劣化してて全然取れないんだけど」


吉川 「マジで? 貸してみ」


藤村 「いける?」


吉川 「ダメだ。爪切ったばっかりだから無理だわ。缶ジュースも開けられないくらい爪がない」


藤村 「なんか10円玉とかない?」


吉川 「ない。ペイしかない」


藤村 「ペイじゃどうにもならないんだよ。なんか鍵とかでもいい」


吉川 「スマートキーだから」


藤村 「しゃらくさいなぁ! 現代人、粘着の強いセロハンに無力すぎる」


吉川 「自分は爪ないの?」


藤村 「やってみるけど、苦手なのよ。ほら、すぐちっちゃく切れちゃう」


吉川 「ささくれレベルしか取れてないな」


藤村 「一生かかるよ、これじゃ」


吉川 「ちょっと取っ掛かりだけ作ってさ、あとやらせて」


藤村 「その取っ掛かりが難しいんだって! すぐささくれになっちゃんだから」


吉川 「なんかないかなぁ」


藤村 「歯とかは?」


吉川 「歯ぁ!? やだよ、そんな何千年も封印されてたの。変な菌とかついてるかもしれないじゃん」


藤村 「ダメダ無理だわ。全然取れん。あとなんか見て、ほら」


吉川 「あー、剥がしたところベッタベタになってる」


藤村 「ね。粘着が古くて残っちゃってるから。もうベッタベタ」


吉川 「もうちょっといけない?」


藤村 「無理だって! 自分でやってみろよ」


吉川 「やってみろって、そもそも封印を解きたいのお前だろ」


藤村 「もう封印とかどうでもいいから。セロハンが一番の問題」


吉川 「これ無理だよ。願いは諦めたほうがいい」


藤村 「いや、絶対に叶えたい!」


吉川 「そこまで?」


藤村 「どうかこのセロハンが剥がれますように!」


吉川 「あ、願いそれになったんだ」



暗転

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