吉川 「この道場では技や身体だけではなく、礼儀などを重点的に学び、日々の暮らしの中でも人間的に成長するということを目標としております。まずは礼から」


藤村 「はい」


吉川 「返事は押忍。きちんと相手を見て頭を下げる」


藤村 「押忍! ちなみに師範はかめはめ波はどのくらい出るんですか?」


吉川 「え、かめはめ波? 出ないですよ」


藤村 「えぇっ!? 出ないんですか?」


吉川 「いや、普通でないでしょ」


藤村 「小っちゃいやつでもですか?」


吉川 「小さいとかじゃなくて、出ないでしょ」


藤村 「あ、出せないんですか」


吉川 「出せないっていうか、出ないでしょ。人間ですよ?」


藤村 「人間でも出せる人結構いますけどね。クリリンとかヤムチャとか」


吉川 「マンガ! アニメでしょ! 普通の人は出ないですよ」


藤村 「あ、普通の人なんですか? 普通の。弱い。モブの」


吉川 「モブとか言うなよ。そんなこと言ったら全員モブだろ」


藤村 「あれ、すみません。ひょっとして流派の? かめはめ波じゃない波のやつなんですか?」


吉川 「どの波でもなく。出ないでしょ」


藤村 「どの波も出せない程度の人が教えようとしてるんですか?」


吉川 「出せない程度って、あなたに比べたら全然強いよ。研鑽してるんだよ、毎日」


藤村 「でもそれは全然下のレベルでしょ? 戦闘力3が2に教えようみたいなレベルの」


吉川 「あのな、強さってのは全部なんとか波で決まるわけじゃないんだよ」


藤村 「それは出せないあなたが言っても。とんでもないバカが『世の中勉強だけじゃない!』って言ってるようなもんでしょ」


吉川 「全然違うよ。なんでとんでもないバカと一緒にしてるんだよ。少なくともとんでもないバカのレベルじゃないよ」


藤村 「ははは。自分で言ってる。なんの波もでないくせに」


吉川 「くせにっていうな。誰も出させないんだよ! 現実の人は!」


藤村 「サタンと同じこと言ってるわ。結構出せる人いるの知らないだけなのに」


吉川 「じゃあ連れてこいよ! 出せるやつを。ここに!」


藤村 「あの、すみません。そのレベルの達人はあなたみたいに暇じゃないと思いますけど」


吉川 「お前本当に失礼だな! 暇だから道場やってるわけじゃないんだよ。少しでも多くの人に技と礼儀を教えたいと思ってやってるの!」


藤村 「その礼儀でかめはめ波出る人に勝てるんですか? 礼儀出すぞーって?」


吉川 「そういういじり方をするか? 俺のことはどう言ってもいいけど礼儀に対してそういうこと言ったらもう終わりだよ?」


藤村 「でも地球を侵略してくる戦闘型異星人みたいのに対して、礼儀でどう対処するんですか?」


吉川 「来ねえだろ! そんな何とか人は来ないんだよ!」


藤村 「そういう平和ボケした地球でしか通用しないお遊びを仲間同士でやりあってるってことですか?」


吉川 「だから! それで十分だろ。それでもお前は遥かに下なんだよ、そのお前にそんなことを言われる筋合いはないんだよ」


藤村 「いいです、百歩譲ってなんの波もでなくてもしょうがないとして、銃とかミサイルとかが来たらどうするんですか?」


吉川 「どうにもならないよ、そんなのは」


藤村 「え、どうにもならないの? やられるだけ? 一生懸命鍛えてるのに?」


吉川 「そういうのとは戦わないんだよ!」


藤村 「それはあなたが決めることじゃないんじゃないですか? 銃で撃たれて『戦わないんで』って言っても弾は避けてくれないですよ?」


吉川 「あのさ、だから言ってるだろ! 強さとかそれだけじゃない、礼儀ってのを学ぶ。それによって日々の生活を少しでもよくする。そういう心がけを学ぶの! さっきの礼もその一環」


藤村 「なるほど、わかりました」


吉川 「本当にわかってる? わかってるようには見えないんだけど」


藤村 「まずは礼から。この頭を下げる動作によって銃弾を避けるという?」


吉川 「礼儀を有効利用しようとするなよ!」



暗転

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